探偵三兄弟の帝都事件簿

ヲダツバサ

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第一章 浅草十二階バラバラ殺人事件

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「小波津くん。君は仕事を二つ掛け持ちしているね。ひとつは、凌雲閣の二階にある食事処の給仕係。もうひとつは、凌雲閣の地下にある娼窟で男娼をしている」

 小波津は蚊の鳴くような声で「はい」と返事した。

 僕は先程から驚きっぱなしだ。男娼なんて初めて見た。今まで自分が住んでいた世界とかけ離れた存在だ。もちろん、男を好む男がいる事は知っていた。けれど自分には無関係の遠い話だと思っていた。

 それに、この浅草十二階の地下には娼窟がある?

「初耳です。ここの地下が、そういうのだなんて……」

「修助が言ってなかったか?」

「言われて、ないような……地下があるとは言っていたような……」

 大串のような曖昧な言い方しか出来なかった。

 僕と鈴木巡査は、長兄と小波津のやり取りを聞いているしかなかった。

「沖塩氏とはそこで知り合ったのかい?」

「そうです。良いお客さんでした。自分で言うのも難ですが、かなり私に入れ込んでいました。私、最初は警戒しましたが、彼の優しさや頼もしさにほだされていきました。しかし沖塩さんがかなり身分の高い人だと知って、私はこの関係を躊躇ったのです」

 聞けば、小波津は男娼の世界から抜け出したかったらしい。が、沖塩氏の存在が引っ掛かった。

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