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第一章 浅草十二階バラバラ殺人事件
1-75 取り調べ②小波津
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長兄は優しい声音で話しかけた。
「小波津くん。初めまして。探偵の倉橋です。あなたの嘘を暴きに来ました」
「嘘だなんて、そんなもの吐いてません」
「嘘というのは言葉で偽るだけを指すのではありません。初めに、あなたは女ではない。男ですね」
小波津さんが驚愕のあまり顔を上げた。
輪郭はやや角張り、下唇は厚い。化粧で中性的な顔付きを作っているが、じっとみていれば肩幅の広さからも男だと推察できる。
自分の性別を隠すためにずっと俯いていたのか。
そして何故か、目の周りが赤く腫れていた。
小波津さんが男と知って鈴木巡査が騒いだ。
「は? 男? 本当ですか? でも女の着物を着ている。どういう事ですか?」
「落ち着きなさい」
長兄が宥める。
「小波津くんが実は男なのは察しが付いていた。実際、私はずっと『小波津くん』と呼んでいただろ」
「でも、いつ分かったのです?」
長兄の視線は、洋服掛けに向いていた。それには男ものの羽織と帽子がかかっている。
「小波津くん。これは君のだろう?」
「はい」
長兄が指差すのは、その羽織と帽子だった。
僕は今更理解した。それらが小波津の物だったと。
最初この部屋に入った時、もちろん外套と帽子は目に入ったが、小波津を女だと思っていたので誰か別の従業員の物だと思っていた。だけどよく考えたら、浅草十二階は朝から封鎖されていて、警官と関係者しかこの建物には入れない。中嶋か大串の物だったら彼らのいる従業員室に置いてあるだろう。
小波津が男である示唆は、初めから目の前にあったのだ。
この人は女だという思い込みから、小波津とは無関係の物と判断してしまっていた。
「小波津くん。初めまして。探偵の倉橋です。あなたの嘘を暴きに来ました」
「嘘だなんて、そんなもの吐いてません」
「嘘というのは言葉で偽るだけを指すのではありません。初めに、あなたは女ではない。男ですね」
小波津さんが驚愕のあまり顔を上げた。
輪郭はやや角張り、下唇は厚い。化粧で中性的な顔付きを作っているが、じっとみていれば肩幅の広さからも男だと推察できる。
自分の性別を隠すためにずっと俯いていたのか。
そして何故か、目の周りが赤く腫れていた。
小波津さんが男と知って鈴木巡査が騒いだ。
「は? 男? 本当ですか? でも女の着物を着ている。どういう事ですか?」
「落ち着きなさい」
長兄が宥める。
「小波津くんが実は男なのは察しが付いていた。実際、私はずっと『小波津くん』と呼んでいただろ」
「でも、いつ分かったのです?」
長兄の視線は、洋服掛けに向いていた。それには男ものの羽織と帽子がかかっている。
「小波津くん。これは君のだろう?」
「はい」
長兄が指差すのは、その羽織と帽子だった。
僕は今更理解した。それらが小波津の物だったと。
最初この部屋に入った時、もちろん外套と帽子は目に入ったが、小波津を女だと思っていたので誰か別の従業員の物だと思っていた。だけどよく考えたら、浅草十二階は朝から封鎖されていて、警官と関係者しかこの建物には入れない。中嶋か大串の物だったら彼らのいる従業員室に置いてあるだろう。
小波津が男である示唆は、初めから目の前にあったのだ。
この人は女だという思い込みから、小波津とは無関係の物と判断してしまっていた。
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