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第一章 浅草十二階バラバラ殺人事件
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五分後、長兄は僕らの元へ戻り、佐藤警部補は階下へ下りて行った。
「何を話していたのですか」
と、僕。
「秘密の話だ。まあ、後で分かるよ」
「佐藤警部補はどこへ?」
「横浜」
長兄は短く答えた。
どこだ、それは。帝都から近いのか?
あっ。たしか神奈川の、帝都と列車で繋がっている場所だ。
「さて。諸君に伝えたい事がある。まず、佐藤警部補に私の推理を伝えて、中嶋は解放する事にした」
「解放ですって?」
鈴木巡査が驚き叫んだ。
「何故です? 奴は怪しいです。血文字でナカジマと描かれていたのですよ」
「それはね、血文字を描いた人物が中嶋の事を知っていても、中嶋の名前がどのような字かは知らなかったのだよ」
「え?」
「血文字はカタカナで、ナカジマ、と描かれていた。どうして漢字ではなくカタカナか。二通りの推理がある。ひとつは漢字を知らないほど教養が無い」
「教養というか教育を受けて無さそうなのは……あの三人の中で、貧しそうな見た目の小波津ですね」
「もうひとつは、どちらの漢字か分からなかった。ナカジマ姓のジマに当たる字は二つある。島か嶋だ。中島か中嶋。血文字の描き手は中嶋と知り合いでも親しくはなく、彼の姓の字を知らないか思い出せない程度の仲だった」
「殺された沖塩氏だって中嶋の字を知らなかったかもしれません」
「だとしたら名前すら、彼の姓がナカジマだとも知らなかったはずだ。彼らの身分は違いすぎる。普通に生きていたら互いの名前なんて分からなくてもおかしくない」
僕は思い出した。
小波津さんも大串も、中嶋の姓は知っていても名は知らなかったり、姓すら知らなかったり、名前の記憶が曖昧だ。同じ浅草十二階で働く者達でもその程度なのだから、沖塩氏が知らない可能性は大いに高い。
「何を話していたのですか」
と、僕。
「秘密の話だ。まあ、後で分かるよ」
「佐藤警部補はどこへ?」
「横浜」
長兄は短く答えた。
どこだ、それは。帝都から近いのか?
あっ。たしか神奈川の、帝都と列車で繋がっている場所だ。
「さて。諸君に伝えたい事がある。まず、佐藤警部補に私の推理を伝えて、中嶋は解放する事にした」
「解放ですって?」
鈴木巡査が驚き叫んだ。
「何故です? 奴は怪しいです。血文字でナカジマと描かれていたのですよ」
「それはね、血文字を描いた人物が中嶋の事を知っていても、中嶋の名前がどのような字かは知らなかったのだよ」
「え?」
「血文字はカタカナで、ナカジマ、と描かれていた。どうして漢字ではなくカタカナか。二通りの推理がある。ひとつは漢字を知らないほど教養が無い」
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「もうひとつは、どちらの漢字か分からなかった。ナカジマ姓のジマに当たる字は二つある。島か嶋だ。中島か中嶋。血文字の描き手は中嶋と知り合いでも親しくはなく、彼の姓の字を知らないか思い出せない程度の仲だった」
「殺された沖塩氏だって中嶋の字を知らなかったかもしれません」
「だとしたら名前すら、彼の姓がナカジマだとも知らなかったはずだ。彼らの身分は違いすぎる。普通に生きていたら互いの名前なんて分からなくてもおかしくない」
僕は思い出した。
小波津さんも大串も、中嶋の姓は知っていても名は知らなかったり、姓すら知らなかったり、名前の記憶が曖昧だ。同じ浅草十二階で働く者達でもその程度なのだから、沖塩氏が知らない可能性は大いに高い。
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