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第一章 浅草十二階バラバラ殺人事件

1-39 ハンケチ

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 次兄は壁を指差した。

「凌雲閣の外壁と内壁の間には階段がある。狭いけどな。人が二列になって通れる幅だ。それが、てっぺんまで螺旋状に続いている」

「なるほど。考えてみれば、階段が無いと火事の時など大変ですね」

「付いてこい」

 九時の方向、壁に半円の梁があり、その入り口をくぐると右側に石造りの階段が現れた。先頭の兄上に続き、階段を登る。僕の後ろに鈴木巡査が続いた。

 二階も一階と同じくらい、明るく広く、豪華な装飾があったが……それより目を引くものがあった。あちこちに西洋の脚の長い卓と椅子があった。宅の上には赤い布が敷かれている。階の隅には流しや釜戸があった。その台所も西洋風である。

 この階はどうやら食事処のようだった。

 階段から半円梁をくぐると、横に壁から突き出たような小部屋があった。戸の前に警官が二人立っている。ここが従業員室だろう。中に重要参考人の一人がいるはずだ。

「鈴木巡査。まずは慰留品について話してくれ」

 次兄が仕切る。たまたま僕にだけ、鈴木巡査が舌打ちする音が聞こえた。

「これです。この水色のハンケチが、左腕の落ちていたこの階にありました。腕から二十歩ほど歩いた、卓の下です。畳まれた状態で、内側に血が付いていました。おそらく被害者の物です」

「兄上には伝えたか?」

 次兄が確認すると鈴木巡査は「はい」と答えた。佐藤警視を通して伝わっていると。

 清潔な白い布に包まれた水色のハンケチを、面倒臭そうに彼は僕らに見せた。

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