探偵三兄弟の帝都事件簿

ヲダツバサ

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第一章 浅草十二階バラバラ殺人事件

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 一拍置いて長兄が、顎に手を当てて一言言った。

「あるいは、わざと落としたのかもしれない」

 次兄が声を荒げた。

「どういう事だ。阿呆な俺にも分かるように説明してくれ」

「いいかい。弦助の仮説が正しいとしよう。遺体は沖塩氏ではない。氏の身分証を現場に落としたのは犯人。だが私の仮説は、それが故意によるものだ。考えてみろ。身分証が現場にあって、遺体が沖塩氏でないとすると、犯人が氏ではないかと疑われる。先程みたいにな。犯人の目的は、この殺人事件を犯したのは沖塩伊太夫氏だと濡れ衣を着せる事。そのために手に入れた身分証をわざと現場に落とした。どうだ。筋は通っているだろう?」

 見事な推理だ。思わず拍手を送りそうになった。さすが長兄。

 もしかしたら沖塩氏の行方が分からないのは、犯人の計画を知って、冤罪で捕まらないように逃げたのかもしれない。

 でも、それなら夕刻の段階で計画を知っていた事になる。わざわざ逃げなくても警官に相談すれば、犯人は捕まり被害者も出なかっただろうに。

 違和感はあるが、犯人は氏の失墜を狙う者という線で間違い無いのかもしれない。

 僕と長兄の推理を聞き、次兄も仮説を立てた。

「もうひとつ可能性があるぞ。あまり現実的じゃないが」

「何ですか」

「沖塩氏は犯人の共犯者だった、ていうのはどうよ。つまり二人で一人を殺したんだ。人間ってのは重いだろ。遺体を凌雲閣に運ぶだけでもなかなか労力がいる。一人でやったとは思えねぇ。で、運び終わった遺体の手足を凌雲閣内のあちこちに置く時、氏は自分の身分証を落としちまった。どうだ。筋は通っているだろう?」

 次兄が長兄の言い方を真似るのはしゃくに障った。

 けれど悔しい事に、なかなか良い点を付いている。

 長兄が来る前に次兄とも話したが、遺体が運ばれた時間はおそらく夜だ。夜は人目に付かない利点がある。それと同時に、足元や、伸ばした手の指先も暗くて見えない欠点がある。

 重い遺体を一人で運ぶのは難しい。

 もしかしたら、遺体を解体したのは、二人で運びやすくするため?

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