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第二章 おふくろの味としじみ汁
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アタシは早速、貸本屋へ駆け込んだ。朝一番の客となったが、ぼんやりしている暇は無いのだ。
こうしている今も、おチヨとトモミはまだかまだかと待っている。
アタシは昼になるまでずっと料理の合間に借りて来た本を読みまくった。特に、九州との料理の違いについては一心不乱に読み漁った。
「おタキさんは何読んでるんだ、ありゃ」
代わる代わる客がやって来て、その中にいつの間にか三郎と弥次郎の大工親子がいた。
他の客が教えてやった。
「料理の本だよ、三郎さん」
「なんだ。化粧伝でも読んでいるのかと思ったぜ。ついに見合いの話でも来たのかと」
わいわい盛り上がる客達。どいつもこいつも、他人の恋の話になると大騒ぎになるものだ。
「なんか、水菜と豆腐の味噌汁を上手く作れるようになりたいんだってさ」
客の一人が言った言葉に、弥次郎が食い付いた。
「水菜も豆腐も、俺は好きだ。おタキさん。白飯と、その味噌汁をくれないか」
「家で出すならともかく、店で出せる味じゃないの。ごめんなさい」
「それでも良い。俺は今、春らしい物を食べたい気分だしな」
「春らしい物……」
その一言が頭に引っかかったが、何故引っかかったのか分からなかった。
アタシは、自分の主義に反するけど、まだ完成形ではない水菜と豆腐の味噌汁を出してみた。
「どうぞ」
弥次郎はまず味噌汁を啜り、水菜を口に入れた。
「美味い! 水菜がシャキシャキしてる! 温かい味噌汁の中でも歯応えを失ってない。それに、臭みが無いから味噌汁の塩味ともよく合うよ」
こうしている今も、おチヨとトモミはまだかまだかと待っている。
アタシは昼になるまでずっと料理の合間に借りて来た本を読みまくった。特に、九州との料理の違いについては一心不乱に読み漁った。
「おタキさんは何読んでるんだ、ありゃ」
代わる代わる客がやって来て、その中にいつの間にか三郎と弥次郎の大工親子がいた。
他の客が教えてやった。
「料理の本だよ、三郎さん」
「なんだ。化粧伝でも読んでいるのかと思ったぜ。ついに見合いの話でも来たのかと」
わいわい盛り上がる客達。どいつもこいつも、他人の恋の話になると大騒ぎになるものだ。
「なんか、水菜と豆腐の味噌汁を上手く作れるようになりたいんだってさ」
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「水菜も豆腐も、俺は好きだ。おタキさん。白飯と、その味噌汁をくれないか」
「家で出すならともかく、店で出せる味じゃないの。ごめんなさい」
「それでも良い。俺は今、春らしい物を食べたい気分だしな」
「春らしい物……」
その一言が頭に引っかかったが、何故引っかかったのか分からなかった。
アタシは、自分の主義に反するけど、まだ完成形ではない水菜と豆腐の味噌汁を出してみた。
「どうぞ」
弥次郎はまず味噌汁を啜り、水菜を口に入れた。
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