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第二章 おふくろの味としじみ汁

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「はいっ、すみませんでした。この事は親方には内密にお願い致します! 何卒!」

「弟よ、格好悪いぞ」

「働いてない奴に俺の気持ちが分かるかっ」

 孫介、やっぱり無職だったのか。

 いやいや、そんな事より、彼女達がどうして船宿さくらに来たのか聞き出したい。アタシは割って入った。

「それで、花火屋に出費するほどの大店の娘さんが、こんな小さな料理屋の味噌汁を飲みたがった理由は?」

 トモミの代わりに、おチヨが答えた。

「トモミ様は探しているのです。ある味噌汁の味を」

「ある味噌汁?」

 全員、おチヨが続きを言うのを待った。

 逡巡して、おチヨは口を開いた。

「トモミ様のお母様がお作りになった味噌汁と、同じ味を求めていました」

 おチヨは目を伏せる。

 トモミは何も言わない。

 アタシは次介に近付いた。

「どういう事です? 何か分かります?」

「ううむ、言っていいのかな……いいや、事実はひとつしかないんだし。実はよ、山川屋の奥方は既に亡くなってるんだ」

「そうだったの。あのトモミって子、母親を亡くしたのね」

「明暦の大火でな」

「えっ」

「山川屋の店と家は、火事の前は違う場所にあったんだ。神田の方だ」

 神田や湯島の方は、火事が特に酷かった地域だ。アタシ達も火事の前は湯島に住んでいたから知ってる。

 北の方は被害が少なかったけど、あの日は北風が強く、火の壁が出来ていた訳だから……人々は南に逃げるしかなかった。逃げ遅れた者が、炎に包まれ焼け死んでいった。

 思い出したくない、悍ましい記憶。

 あの地獄に、この人達もいたのか。あの火事で、トモミは母を失ったのか。

 胸が苦しくなった。重い石がのしかかったかのように。

「アタシに何をしてほしいの?」

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