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第3章 万年筆

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 つまらない詩を読み上げるかのように、淡々と言い上げました。

 物によっては千年もの時を歩む付喪神。その時間の流れの中の、いくつもの出会いと別れ。心が弾けるほどの喜びもあれば、身を裂かれるほどの悲しみもあったと思います。孤独の中で出会う絆。喧騒の中で別れる平穏。

 美雲丸は、主を、人間を愛しながらも、虚しくなってしまったのかもしれません。

 どんなに尊い思い出を作っても、別れと共に無意味になるから。

 生き別れも、死に別れも、もう嫌になったのかもしれません。

 けれど、

「感情がなければ分かり合う事は出来ないよ」

 だからこそ、

「さよならが辛いのは、それほど素敵な日々だったという証拠だよ」

 私は美雲丸が好きなのです。

 美雲丸は目を瞑り、頷く事も返事もせずに、黙ってずっと私の隣に立っていました。



 秋はまだ始まったばかりで、たとえ短くとも、冬はまだまだ先でした。
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