【完結】失くし物屋の付喪神たち 京都に集う「物」の想い

ヲダツバサ

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第3章 万年筆

3-66

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 率直に言われ、赤松さんはたじろぎました。

「簡単に言わないで。人間は1日に動ける時間が限られているの。それに、どちらかに時間を捧げすぎてどちらかを疎かにするのはいけないわ」

「言い訳だな。本当に好きな事なら何らかの方法を取って続けられる」

「本気で夢を追った事の無い人の意見ね。人間にはどうしても体力の限界がある。時間の無い人間が真っ先にやる時間の作り方は、睡眠時間を削る事よ。最初の内は情熱で乗り越えられる。でも次第に調子が悪くなっていって、精神もやられて、夢を追う事が楽しくなくなるのよ」

「なら、睡眠を削る事以外で時間を作れば良い。店が休みの日に小説を書くとか」

「商店が休みの日は、店主にとって休みじゃないの。営業日に出来ない事をやる日なの。分かる? 呉服屋を継いだらもう私に自由は無いの。自由に小説を書けた楽しい時間は終わるのよ!」

「だったら、終わらせてしまえ」

 苛立った声の筆丸。その声に赤松さんも私もビクッと震えてしまいました。美雲丸と弦介さんは無表情で見つめています。

「二度と小説を書かなければ良い。二度と夢など思い出すな。そうすれば、楽になれる」

 声は苛立っていますが、筆丸の目は切なそうでした。
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