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第3章 万年筆

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 頭を抱える私を見かねて、赤松さんが「私がやっておくから帰って良い」と声をかけてくれたのです。

「あなた、この世の終わりみたいな顔をしていたわ。絶望的な表情で」
「大袈裟な人だね、私って。あの時は本当にありがとう」
「それで、助けてあげたら、子犬みたいに瞳を輝かせて可愛かったわ」
「そんな事思っていたの? 可愛いだなんて、ありがとう」
「とにかく面白かった。人間って単純な事で喜ぶんだなー、って思ったわ」

 ちょっと複雑な気分です。

「元気が出たの。こんな私でも誰かを幸せにする事が出来るんだ、と」
「赤松さん……」
「慰めの言葉は言わないで。一時凌ぎの気休めじゃ解決しない。姉が死んだ事実は変えられないし。私が夢を諦めなければいけないのは仕方ない。もしかしたら、呉服屋の事をずっと姉に押し付けていたバチが当たったのかもね」
「それ、実際に誰かに言われたの?」
「あはは。気付いた? 叔母に、私の父の妹にね。姉の穂波を可愛がっていたし、とても期待してたから。実の娘のように慈しんでいたわ。穂波ではなく美波が死ねば良かったのに、と思ったに違いない。複雑な家に生まれると、複雑な人生が待っているものなのよね」

「うん。そうだよね。分かるよ……。鴫野宮家も、そんな感じだから。兄ばかり大事にされている」

 初めて、家族の実態を他人に話しました。曖昧な言い方ですが。
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