上 下
207 / 368
第3章 万年筆

3-41

しおりを挟む
「学校へ行け」

 父はそれだけ言って、流しで包丁を洗い始めました。

 言う通り、早々と立ち去ろうとしたのですが……

「あの」

 勇気を振り絞って、声をかけました。

「何だ?」
「聞きたい事があります」

 私より兄しろがねの方が大事なのか、聞くまでもない事ですがハッキリ聞きたいと思いました。そうすれば、こちらも家族への期待を完全に捨てる事が出来ますから。

 期待とは……私が料理を上手くなったら普通の家族のように仲良く出来るのか、です。

 どんなに冷たくされても、それを夢見ていました。一緒にご飯を食べて、どうでも良い話題でお喋りして、休日は一緒にどこかへ出かける。そんな「当たり前」に憧れていました。正直、他の人の「幸せ」を妬んでいました。

 いくら付喪神の友達が沢山出来ても、それだけは叶わない。

 この切なさを解消したいと思ったのです。

 しかし、父の背後に美雲丸が現れて、その機会を失いました。
しおりを挟む

処理中です...