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第1章 タイムカプセル

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 断れる訳、ありませんでした。美雲丸が私に頼み事があるなんて初めてです。よほど困った事があるのでしょう。

 フクが「お兄さんが、こがねちゃんを探してるよー」と警報を発したので、急いで行きます。

 美雲丸も姿を消しました。

 予感がする。何か大きな事が起こりそうな、私が何かとんでもない出来事を引き寄せそうな、予感。

 新たな出会いが待っている。

 胸が高鳴り、兄や父にどんなにいびられても落ち込みませんでした。



 自宅近くのバス停からバスに乗り込み、遅刻間際で私が通う高校に着きました。共学の公立高校で、駅前の下り坂の先にあります。

 母や祖母から、私が作った朝食が不味いだの、お茶が緩いだの、食器の洗い方が適当だだの、色々怒鳴られたせいもあるのですが……意図してこの時間に登校してる節もあります。

 階段を駆け上がって、自分の教室に入りました。二七人のクラスメイト達は眠そうで、慌ただしい私など目もくれません。

 私はちらりと、教室の前方、廊下側の席に目をやりました。お手洗いにでも行っているのか、空席です。

 それを確認して、ホッとしました。あの席の男子とは会いたくないのです。

 暗い気分で、私はぼんやりと窓の外を見ました。退屈そうなカラスが一羽、電柱から電柱へ飛んでいきます。

 実は、夏休みには、ひとつのお別れがありました。

 それが胃の中に重い石でも出来たかのように、私の心を沈ませるのです。

 ひとりのクラスメイトと、ひとりの先輩に、どうしても会いたくない。

 学校ではそのふたりを避けるように行動しました。五時間分の授業があっという間に終わります。

 友達である女子のクラスメイトと話したり昼食を一緒に食べたり、楽しい時間もありましたが、さして重要な話ではないので割愛します。
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