【完結】失くし物屋の付喪神たち 京都に集う「物」の想い

ヲダツバサ

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第1章 タイムカプセル

1-9

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 二メートル後方に、半透明の人間が立っていました。体がやや透けており、背景である庭や家がうっすら見えます。

 目を凝らすと、それは男の人である事が分かりました。二十代前半。腰まである長い髪。少し吊り上がった目。金色の帯を締めた藍色の着物に、紺色の羽織。腰に刀を差していて、侍のような風貌です。しかし武者というより踊り手のような印象です。

 知らない人でした。そもそも人でしょうか。体が透けているなんて、幽霊の可能性があります。

 彼は名乗りました。

「私は付喪神だ。名前は美雲丸みくもまる

 つくもがみ。彼はそう言いました。

 六歳の私には知らない言葉でした。

「付喪神って何?」
「長い間使われた物に宿る精霊のような存在だよ。神という字が付いているが、どちらかと言うとあやかしに近い」
「人間じゃないの?」
「ああ、そうだよ。オバケみたいなものだ」
「悪いオバケ?」
「いや、違う。悪い事なんてしない。私はさっき、こがねが池に落ちるんじゃないかと心配になって、つい出て来てしまったんだ。本当は、付喪神は姿を現してはいけないのに」

 美雲丸の声は穏やかでした。春の夜に吹く風のように、暖かくて、心地良い。
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