上 下
356 / 369

第355話

しおりを挟む
「・・・うっ」

リングの端で小さな声が上がった。

『!?アリシアっ!!目を覚ましたかっ!?』

治療に専念していたイズが声を上げた主・・・アリシアの耳元まですぐに飛んで行き、無事を喜び声を掛ける。

「・・・イズさ・・・ん?わ、私《わたくし》は一体・・・」

アリシアは半身を起こしながら曖昧な記憶を確認する。

『覚えていないのか?お主はマドッグを道連れにしようとして重傷を負ったのだ』

イズがアリシアの右肩に飛び乗り、状況を説明する。

「はっ!?・・・そうでしたわっ!!」

アリシアはイズの説明を聞いて状況を理解すると慌てて周りを見回す。

その勢いでアリシアのボロボロの服の上から掛けたグレイの上着が落ちる。

そして、グレイとマドッグが対峙している状況が目に入った。

「・・・っ!?そうですか・・・あれでも倒せませんでしたか・・・またグレイに負担をかけてしまうとは・・・」

アリシアはマドッグを打倒出来なかった事を理解し、グレイに戦わせている状況を嘆く。

イズは一度地面に落ちたグレイの上着を嘴で摘み、アリシアの上から掛けてやる。

『・・・馬鹿者が・・・相討ちなどしようとしおって。あの時のグレイの顔を見せてやりたかったぞ』

イズはアリシアを窘《たしな》める。

「・・・・・・申し訳ございませんでした。あの時はあれしか手が無いと思いまして・・・」

アリシアがイズの言葉に素直に反省する。

『我では無く、グレイに謝るんだな。それより、服を着たらどうだ?そして、早くここから離れるぞ』

イズの言葉にアリシアは自分の今の姿にようやく気が付き、

「きゃっ」

顔を真っ赤にさせて急いで上着を羽織る。

(これはグレイの?・・・ということは、グレイに見られたということですかっ!?)

アリシアは誰の上着か気づき、緊迫した状況にもかかわらず更に茹でダコのように顔を真っ赤にさせる。

大声を上げなかったのが唯一残った冷静さであろう。

『何を動揺している??まあいい、服を着たな?さぁ、その娘を連れて離れるぞ』

イズはアリシアが何故顔を赤くしたのか分からず、次の行動を促す。

「・・・ユリア姉様!」

アリシアはイズの言葉に意味を理解するために隣を見ると安らかな息をして横たわっているユリアを見つける。

怪我が治っているのをすぐに理解すると安堵する。

(グレイが治してくださったのですね)

「良かったですわ」

アリシアはユリアの無事な姿を見てほっとするとユリアの体を持ち上げ速やかにリングから移動し距離を取った。

『よし。これで、グレイが思う存分戦える。アリシア、次はどうする。決着を見届けるか?』

イズがアリシアに次の行動を尋ねる。

「・・・そうですわね」

アリシアは次にどう動くべきかを瞬時に考え、その結果をイズに伝えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。

モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。 日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。 今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。 そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。 特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。

学園長からのお話です

ラララキヲ
ファンタジー
 学園長の声が学園に響く。 『昨日、平民の女生徒の食べていたお菓子を高位貴族の令息5人が取り囲んで奪うという事がありました』  昨日ピンク髪の女生徒からクッキーを貰った自覚のある王太子とその側近4人は項垂れながらその声を聴いていた。  学園長の話はまだまだ続く…… ◇テンプレ乙女ゲームになりそうな登場人物(しかし出てこない) ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!

町島航太
ファンタジー
 ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。  ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。

異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?

夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。 気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。 落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。 彼らはこの世界の神。 キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。 ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。 「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

孤児による孤児のための孤児院経営!!! 異世界に転生したけど能力がわかりませんでした

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はフィル 異世界に転生できたんだけど何も能力がないと思っていて7歳まで路上で暮らしてた なぜか両親の記憶がなくて何とか生きてきたけど、とうとう能力についてわかることになった 孤児として暮らしていたため孤児の苦しみがわかったので孤児院を作ることから始めます さあ、チートの時間だ

『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio
ファンタジー
 特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。  神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。 そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。 日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。    神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?  他サイトでも投稿しております。

処理中です...