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第354話

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(・・・良し。出だしは好調だ・・・このまま一瞬たりともミスは許されない。全身の神経を集中させろ)

マドッグを油断なく見据えながらグレイの内心は全く余裕では無かった。

何しろどの攻撃も当たればグレイにとって致命傷に成り得るのだ。

例え致命傷を受けたとしても【エリクサー奥の手】はあるが、それが通用するのは一度だけなため、このまま完封を目指すのが最善であった。

(・・・というか、この前一度見せている気もするから対策を講じている可能性もあるしな・・・)

グレイは、先日のマドッグとの戦いを思い出す。

毒に蝕まれながらも問題なく行動しているところからマドッグにグレイの奥の手にも気づいている可能性は十二分にあった。

(それにしてもなんつー硬さだよ)

グレイはバレないように【エリクサー】で回復をしながら舌を巻く。

本当は追撃し、マドッグを無力化したかったが先ほどの攻撃の所為で拳が限界だったため断念したのだ。

(失敗したな。【エリクサー】を使いながら決めておくべきだった)

実は、グレイは後悔していた。

もちろん、そのような感情は外には微塵も出さない。

(・・・さぁ、次はどうする・・・)

グレイはすぐに先の事に考えを巡らせ、必死で頭をフル稼働させる。

自分の持てるカードを最大限に活かし、目の前の敵を打倒する。

(マドッグ・・・お前は絶対許さねぇ!!)



「・・・嘘だろう」

貴賓席から戦いを見ていたマギルは思わず驚きの声が漏れていた。

無理もない。

ただの平民の少年が自分よりも強い男を圧倒しているのだから。

「「「・・・」」」

そして、マギルのその言葉は貴賓席から試合を見守っている誰もが思った言葉であった。

(グレイ君。君には何かがあると思っていたが、まさか、ここまで圧倒的とは思っても見なかったよ)

実は一番驚いていたのはゾルムであった。

娘のアリシアのピンチを何度も救ってくれた少年。

その事実は知っていたことで、グレイという少年のことを知ったつもりになっていただけということをはっきりと感じていた。

(全く、君は本当に驚かせてくれるな。頼むぞ。この場を何とかしてくれ。アリシアを頼む・・・)

ゾルムは周りに分からないように心の底から祈った。

一方、グレイの戦いを見て点で驚いている者達がいた。

「・・・マズロー隊長?」

姫が護衛騎士隊長の名前を呼ぶ。

「・・・」

だが、マズロー隊長は姫の言葉に気が付かないくらい驚いていた。

「マズロー隊長!」

姫が少し大きめの声で再度名前を呼ぶ。

「はっ・・・すみません姫様。少し考え事をしていたようです」

ようやく姫が自分を呼んでいる事に気づいたマズロー隊長が返事を返す。

「いえ。そのようなことは構いません。それよりもあの少年はもしや・・・」

姫はマズロー隊長に尋ねる。

「はい。私も同じことを考えておりました。・・・可能性は高いと言わざるを得ませんね」

姫が言わんとしていることを理解したマズロー隊長ははっきりと肯定した。
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