他人の寿命が視える俺は理を捻じ曲げる。学園一の美令嬢を助けたら凄く優遇されることに

第347話

（流石に速いですわね）

目論見通り、マドッグが自分に注目し襲い掛かってくる様子をアリシアは冷静に観察する。

それと同時にアリシアの視界の隅でユリアが距離を取るのを確認する。

（ユリア姉様に私《わたくし》の意図がちゃんと伝わったみたいですわね。でしたら私《わたくし》がすることは一つですわ）

ユリアがマドッグの虚を突けるようにアリシアは囮役に徹する。

アリシアの今やるべきことはそれに尽きた。

ブン

肉薄して来たマドッグが恐ろしい速さで貫手を放つ。

狂うことなくアリシアの顔面を狙うが、紙一重で避ける。

「・・・」

マドッグはそのままもう片方の手で貫手を放つがこれも紙一重で交わす。

にぃ

マドッグの口角が上がる。

「面白い！」

ブォン

先程までの攻撃が小手調べと言わんばかりに段々と攻撃の速度が上がっていく。

貫手や蹴りはもちろん頭突きも交え、アリシアに対して怒涛のラッシュを繰り出すマドッグ。

だが、驚いた事にそれら全ての攻撃を紙一重で避けるアリシア。

隙を伺うためにその様子を見ていたユリアは今目の前で起こっている事が信じられなかった。

（まさか、アリシアがここまで強くなっていたとは・・・）

魔法学園に通う生徒には大別すると3種類の戦闘スタイルが存在している。

一つ目は、魔法をメインに使う者だ。

当然ではあるが魔力が多い者がこの戦闘タイプになる傾向が強い。

いわゆる遠距離タイプである。

二つ目は、武器も含めた体術をメインに使う者だ。

魔力が少ない者がこの戦闘タイプになる傾向が強い。

いわゆる近距離タイプでグレイなどはこのタイプにあたる。

そして三つ目は、魔法と体術を組み合わせて使う者だ。

これは魔法の才能はもとより体術の才能もある必要があるため逸材が多い魔法学園と言えどもほとんどいない。

（アリシアは間違いなく魔法メインだと思っていたがまさか近接戦闘もこなせるとはな）

マドッグの攻撃を避け続けるアリシアを見て驚きしか無かった。



「・・・驚いたな」

貴賓席から娘と男の戦闘を見ていたゾルムが思わず呟く。

周りを見ると誰もがアリシアの凄さに言葉が出なくなっているようだった。

（いつの間にあんなに成長していたのだ？・・・いや、そうか）

ゾルムはアリシアが急激に強くなった理由にすぐに思い至る。

アリシアはここ数ヶ月で様々な経験をして来たのだ。

そう考えると急成長も納得できた。

（まぁ、一番のきっかけはグレイ君と知り合ったからだろうな）

ゾルムは娘の危機を何度も救ってくれたあの不思議な少年を思い浮かべる。

（あの少年ならこの状況を何とかできる。そんな気がするのは何故だろうな。・・・頼むぞグレイ君）