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第342話

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ユリアは自分よりも一歩前に出たアリシアの背中を見る。

凛々しい姿だ。

真っ直ぐに立ったその姿はアリシアの強い意思を体現しているようだ。

(フッ・・・いつの間にかこんなにも立派になっていたのだな)

ユリアはアリシアと並ぶように一歩前に出る。

「ユリア姉様?」

アリシアは自分の隣に来たユリアの名前を呼ぶ。

「可愛い妹分に任せて自分だけ逃げる訳には行かないだろう?」

ユリアはにやりと笑みを浮かべる。

それは、同性の者でも思わず見惚れてしまうくらいの爽やかな笑みであった。

「ふふふ、姉様らしいですわね」

ユリアの言葉に釣られてアリシアも笑みを浮かべる。

強大な敵に立ち向かおうとしているのにも関わらず、まるで恐怖を感じさせない見る者を元気にさせるような良い笑顔である。

「二人とも死ぬんじゃないぞ」

その様子を見ていた先生は少しの間迷っていたが、アリシアとユリアの二人にそう言うと、負傷者達を運ぶために肩に担ぐ。

「先生方、皆で医務室に運びましょう」

「・・・どうやらそうするしか無いでしょうね」

「畏まりました」

奇しくも今しがた倒れたサイレスを含めると負傷者の数とリングの周りに駆け寄っていた先生たちの数が同じになった。

誰かを残して何回か往復することも考えたが、負傷者の様子を見るとその様子は無かったため断腸の思いでの決断であった。

バッ

先生方がリングを背に走り出す。

先生の一人だけはサイレスに駆け寄ってから担ぎ、会場を後にして行く。

こうしてリングの周りには襲来した男とアリシアとユリアの三人だけになった。

「・・・大した覚悟だな」

男は一部始終を黙ったまま眺め、ぽつりと呟く。

どうやらサイレスの時とは異なり、ある程度話を聞いてくれる気があるようだ。

「貴様の目的は何なのだ?こんなことをして唯じゃすまないぞ」

ユリアは気になっていたことを尋ねる。

今から目の前の男に殺されるかもしれない。

だからせめて理由を知りたかった。

「・・・」

男は黙ってユリアの目を見る。

男にとっては答える必要は無いのだ。

この中ではマシな方とは言え、男にとっては路傍の石のようなものなのだから。

(・・・無駄な時間は過ごす訳にはいかないしな)

男は二人を無力化するために軽く構える。

ユリアは敏感に男の変化を感じ取り、臨戦態勢を取る。

しかし、

「・・・あなたは復讐のために来たのですわよね?」

「!」

アリシアの言葉に男が軽くではあるが初めて感情を動かす。

(やはり、そうでしたか)

アリシアは男の様子で自分の仮説が正しかったと確信した。

「あなたの名前はマドッグ・ゾイド。・・・狙いは、グレイ・ズーですわね」

「っ!?」

アリシアの放った言葉を聞いて男は今度こそ明らかに動揺を露にしたのであった。
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