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第331話
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「「「ワァァァァァ」」」
アリシアは観客の歓声に応えるように手を振ったり顔を向けたりする。
その度にリアクションを返してくれる観客達。
アリシアが普段以上にサービスをするのには理由があった。
それは、アリシアがリングに向かうタイミングに乗じてセリーとエルリックが観客席から飛び降りるのが目に入ったからだ。
アリシアはそこでピンと来た。
セリー達もグレイに何か起きていることに気が付き、何とかしようと動いたのだと。
(流石、セリーですわ)
アリシアは怒り心頭であった気持ちが少しだけ和らぐのを感じた。
とはいえ、和らいだだけで怒りは収まった訳では無いが。
(今の私《わたくし》に出来る事は少しでも時間を稼ぐこと。そうすればセリー達が何とかしてくれるかもしれません)
こうしてアリシアは他の出場者よりもいささか長い時間をかけて定位置に着いた。
「・・・久しぶりだなアリシア。君にしては珍しく時間をかけてやってきていたな。・・・まあいい。今日はまたとない機会だ。君と戦えるのを楽しみにしているぞ」
アリシアに向かってユリアがそう声を掛ける。
アリシアにはユリアのその言葉が意外であった。
「御無沙汰しておりますわ。ユリア姉様。私《わたくし》など、姉様の足元にもお呼びませんが尽力致しますわ」
アリシアはにっこりと笑みを浮かべて返事をする。
「・・・ふっ。謙遜するな。君の凄さは知っているつもりだからね」
ユリアはにやりと笑みを浮かべる。
アリシアとの対戦を心から楽しみにしているようだ。
「勿体ない御言葉ですわ。ご期待に沿えるよう頑張ります」
アリシアはユリアの目を見てしっかりと意思を伝える。
「おいおい。この俺様を差し置いて何を二人で盛り上がっていやがる。ユリアを倒すのは俺なんだよ」
ユリアとアリシアの会話を盗み聞きしていたサイレスが空気を読まずに口を挟む。
「・・・何だ。まだ居たのか?私とアリシアの会話に勝手に入ってくるな」
ユリアはさも煩わしそうにサイレスに言い放つ。
「なんだとっ!?ふざけやがって!!」
サイレスはアリシアと会話している時の表情とは180度違う対応のユリアのセリフに苛立ちを隠せず声を上げる。
(ユリア姉様とサイレス様の仲は相変わらずですわね)
アリシアは二人の様子を見て内心で呟く。
「よぉ。アリシア嬢。久しぶりだな」
ユリアに邪険にされたサイレスは会話の先をアリシアに変える。
「はい。お久しぶりですサイレス様」
アリシアは当たり障りのないように答える。
「ああ。まだ組み合わせは分からないが、俺と当たるようだったら手加減してやるから安心しろよ」
アリシアの反応に気を良くしたサイレスがカラカラ笑いながら告げる。
「ふふふ。ありがとうございますわ」
誰からも好かれるアリシアではあったが、苦手としている人物は勿論いる。
少ない方ではあるが、ゼロではない。
目の前の人物もその内の一人であった。
(もしかしたら、グレイに手を出したのはこの方かもしれないですわ)
貴族至上主義のこの男なら充分あり得た。
「はっはっはっ、アリシア嬢と話していると気分が良いなっ」
サイレスは笑顔を浮かべながら定位置に移動していったのであった。
「・・・やれやれ。すまんなアリシア」
「いえ、ユリア姉様は悪くありませんわ」
サイレスに聞こえないように声量を落とし、2人はそう口にしたのであった。
アリシアは観客の歓声に応えるように手を振ったり顔を向けたりする。
その度にリアクションを返してくれる観客達。
アリシアが普段以上にサービスをするのには理由があった。
それは、アリシアがリングに向かうタイミングに乗じてセリーとエルリックが観客席から飛び降りるのが目に入ったからだ。
アリシアはそこでピンと来た。
セリー達もグレイに何か起きていることに気が付き、何とかしようと動いたのだと。
(流石、セリーですわ)
アリシアは怒り心頭であった気持ちが少しだけ和らぐのを感じた。
とはいえ、和らいだだけで怒りは収まった訳では無いが。
(今の私《わたくし》に出来る事は少しでも時間を稼ぐこと。そうすればセリー達が何とかしてくれるかもしれません)
こうしてアリシアは他の出場者よりもいささか長い時間をかけて定位置に着いた。
「・・・久しぶりだなアリシア。君にしては珍しく時間をかけてやってきていたな。・・・まあいい。今日はまたとない機会だ。君と戦えるのを楽しみにしているぞ」
アリシアに向かってユリアがそう声を掛ける。
アリシアにはユリアのその言葉が意外であった。
「御無沙汰しておりますわ。ユリア姉様。私《わたくし》など、姉様の足元にもお呼びませんが尽力致しますわ」
アリシアはにっこりと笑みを浮かべて返事をする。
「・・・ふっ。謙遜するな。君の凄さは知っているつもりだからね」
ユリアはにやりと笑みを浮かべる。
アリシアとの対戦を心から楽しみにしているようだ。
「勿体ない御言葉ですわ。ご期待に沿えるよう頑張ります」
アリシアはユリアの目を見てしっかりと意思を伝える。
「おいおい。この俺様を差し置いて何を二人で盛り上がっていやがる。ユリアを倒すのは俺なんだよ」
ユリアとアリシアの会話を盗み聞きしていたサイレスが空気を読まずに口を挟む。
「・・・何だ。まだ居たのか?私とアリシアの会話に勝手に入ってくるな」
ユリアはさも煩わしそうにサイレスに言い放つ。
「なんだとっ!?ふざけやがって!!」
サイレスはアリシアと会話している時の表情とは180度違う対応のユリアのセリフに苛立ちを隠せず声を上げる。
(ユリア姉様とサイレス様の仲は相変わらずですわね)
アリシアは二人の様子を見て内心で呟く。
「よぉ。アリシア嬢。久しぶりだな」
ユリアに邪険にされたサイレスは会話の先をアリシアに変える。
「はい。お久しぶりですサイレス様」
アリシアは当たり障りのないように答える。
「ああ。まだ組み合わせは分からないが、俺と当たるようだったら手加減してやるから安心しろよ」
アリシアの反応に気を良くしたサイレスがカラカラ笑いながら告げる。
「ふふふ。ありがとうございますわ」
誰からも好かれるアリシアではあったが、苦手としている人物は勿論いる。
少ない方ではあるが、ゼロではない。
目の前の人物もその内の一人であった。
(もしかしたら、グレイに手を出したのはこの方かもしれないですわ)
貴族至上主義のこの男なら充分あり得た。
「はっはっはっ、アリシア嬢と話していると気分が良いなっ」
サイレスは笑顔を浮かべながら定位置に移動していったのであった。
「・・・やれやれ。すまんなアリシア」
「いえ、ユリア姉様は悪くありませんわ」
サイレスに聞こえないように声量を落とし、2人はそう口にしたのであった。
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