上 下
317 / 399

第316話

しおりを挟む
「ですから、大変失礼ながらアリシア様には様付け無しでお呼びいただき、そして出来ましたら気兼ねなくお話できれば幸いです」

セリスがアリシアの目を真っ直ぐ見て懇願する。

アリシアはセリスの話を聞いて考えを改める。

「畏まりましたわ。

「っ!?」

アリシアの言葉に明るい表情になるセリス。

自分の気持ちを吐露したとはいえ、駄目もとだったのだ。

(しかも、呼び捨ててくださるなんて)

セリスはもし『様』付けが無くなった場合でもせいぜい『さん』付けまでだと思っていたのだ。

良い方向の驚きがセリスの胸の内に拡がる。

「ありがとうございます。アリシア様」

セリスが嬉しそうに礼を言うと、アリシアはゆっくりと首を振る。

「私《わたくし》とセリスは対等な立場ですわ。正確にはセリスの方が目上と言っても良いです。私《わたくし》が呼び捨てをする以上、セリスも私《わたくし》を呼び捨てなければつり合いが取れませんわ」

聖女であるセリスは3大貴族と同格の地位にある。

厳密に言えばアリシアの父であるゾルムと同じ立ち位置なのだ。

3大貴族のバルム家とは言え、アリシアは家長ではない。

従って、セリスの方がアリシアよりも身分が高いと言える。

「・・・畏まりましたわ。アリシア。よろしくお願いいたしますね」

セリスが考えたことは身分云々ではない。

単純に自分が相手にお願いしたことを相手が求めてきたらそれに応えなければ失礼だと思っただけであった。

「はい。よろしくお願いいたしますわ」

アリシアがにっこりと笑う。

(セリスの境遇は3大貴族として生まれた時から宿命づけられた私《わたくし》には当たり前に映りますが3年前まで村人として生きてきたのであれば戸惑って当然ですわね)

セリスが語ったことをアリシアはずっと感じてきた。

3大貴族という立場から、家族の期待や周囲からの注目、英才教育もされてきた。

それらを当たり前のことだと認識していたため苦痛とは感じなくなっていたが物心ついてから一人前になるまでの何年間は起きてから寝るまでの間の自由な時間はほとんどなかった。

今でこそ増えたが、最近まで同年代で気を許せる友人もそこまで多くは無かった。

3年前に急に聖女になったセリスの場合は気を許せる友人などいないのも無理はない。

それから、アリシアとセリスはたくさんの時間を会話に費やした。

まずは、共通な話題である治癒魔法について、そして魔法の話や魔法学園の話、さらには【魔法武闘会】の話にまで及んだ。

アリシアもセリスと話すことでとても楽しい時を過ごした。

が、セリスのこの話題には動揺してしまった。

それは【魔法武闘会】の話をしている時だった。

「そう言えば、アリシアの同級生のグレイ・ズーさんってご存知ですか?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です

しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

異世界を8世界ほど救ってくれって頼まれました。~本音で進む英雄譚~(仮)

八神 凪
ファンタジー
神代 陽(かみしろ はる)はゲームが趣味という普通の高校生。 ある時、神様軍団に召喚されて異世界を救ってくれと頼まれる。 神様曰く「全部で8つの世界」が危機に瀕しているらしい。 渋々承諾した陽は、「主人公」と呼ばれる特異点を救うため、旅立つことになる。 「俺は今でも納得してないからな!」 陽の末路や、如何に!!

スキルを極めろ!

アルテミス
ファンタジー
第12回ファンタジー大賞 奨励賞受賞作 何処にでもいる大学生が異世界に召喚されて、スキルを極める! 神様からはスキルレベルの限界を調査して欲しいと言われ、思わず乗ってしまった。 不老で時間制限のないlv上げ。果たしてどこまでやれるのか。 異世界でジンとして生きていく。

ドラゴンなのに飛べません!〜しかし他のドラゴンの500倍の強さ♪規格外ですが、愛されてます♪〜

藤*鳳
ファンタジー
 人間としての寿命を終えて、生まれ変わった先が...。 なんと異世界で、しかもドラゴンの子供だった。 しかしドラゴンの中でも小柄で、翼も小さいため空を飛ぶことができない。 しかも断片的にだが、前世の記憶もあったのだ。 人としての人生を終えて、次はドラゴンの子供として生まれた主人公。 色んなハンデを持ちつつも、今度はどんな人生を送る事ができるのでしょうか?

スマートシステムで異世界革命

小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 /// ★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★ 新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。 それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。 異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。 スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします! 序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです 第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練 第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い 第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚 第4章(全17話)ダンジョン探索 第5章(執筆中)公的ギルド? ※第3章以降は少し内容が過激になってきます。 上記はあくまで予定です。 カクヨムでも投稿しています。

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

処理中です...