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第315話

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「あの・・・」

アリシアの言葉を聞いたセリスが遠慮がちに声を上げる。

「はい?どうされましたか??」

はて、どうしたのでしょうと思いながらアリシアがセリスに尋ねる。

すると、セリスはよりおどおどしながら、

「えっと・・・その・・・できましたらその『様』付けをやめて頂きたいのですが・・・」

「申し訳ございません。流石にそれは難しい・・・」

「そのようなことを仰らないでお願いいたします!!」

難しいですと言い終える前にアリシアの言葉を遮り、セリスが被せ気味にお願いしてきた。

これにはアリシアも驚く。

セリスの大人しい雰囲気に似合わない勢いだったからだ。

「・・・理由をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

セリスの様子にアリシアは理由も聞かずに断るのも悪いと思い、自然とそのように言葉が口から出る。

セリスはアリシアの言葉に明るい表情をさせた。

きっと、似たようなやり取りを過去にもしたことがあるのだろう。

即座に断れなかったことが嬉しいに違いない。

「は、はい。実は・・・」

セリスはゆっくりと様付けをされたくない理由を話し始める。

それはこのような内容であった。



セリスはアリシアも知っているように3年前の12歳の頃に【聖女認定】され、今代の【聖女】となった。

いままで、普通の村人として村の中を駆け回り楽しく生きていた最中である。

まず、自分の周りの村人たちの態度がガラッと変わった。

身近なところでは両親がセリスに対してまるで貴族に対するような接し方になった。

敬語は当たり前、いつもは両親の後で入っていた風呂も最初に入れられ、寝る時も両親が使っていたベッドを一人で使わされることになった。

食事時には今まで父が使っていた上座に座らせられ、自分の家なのにとても居心地が悪くなった。

更に追い打ちをかけるように妹の自分に対する態度も両親と同じように変わってしまったのだ。

これにはセリスは愕然とした。

今まで楽しそうに自分の後に続いてきた妹が日に日によそよそしくなったからだ。

家族でさえそうなら村の住人たちの態度は想像に難くないだろう。

今まで村の中で威張っていた村長でさえセリスを最優先に考えるようになったのだ。

はっきりいってセリスは【聖女認定】されてから【聖女】として王都に迎えにくる人が来るまでの数週間の間、窮屈な思いをした。

「村を離れれば解放されると思っていたのですが、待っていたのはより窮屈な生活でした」

セリスが当時を思い出したのか暗い表情で乾いた笑い声を上げる。

(突然、村人からの【聖女認定】。まるで、身分の革命が起こったような心境でしょうね・・・)

アリシアはセリスの様子を見て、事情を悟る。

村人という地位の低い状態からの【聖女】。

これは、一般人が急に王様になるようなものだろう。

アリシアがセリスの心中を察していると、セリスが続きを話す。

「王都に着いた時からは先代の聖女様が不在の間に困っていた方々の治療、そして夜には寝る間を惜しんでの貴族としての振る舞いの訓練と知識の習得。何よりも辛かったのはまともに会話を出来る方もいなかったことでした」

気落ちしたようにし、セリスが遠い目をする。
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