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第302話 少し過去の迷宮脱出後の話⑥です
しおりを挟む(とすると、単純に子供が何者かに追い掛けられているということだな)
グレイはそのように結論付けると走る速度を上げる。
(今は一刻も早く追いつくことが大事だ)
『グレイ!あそこだ!!』
少し先にいるイズがグレイに向かって叫ぶ。
「まずい!」
グレイがイズに追いついた時に見たのは、一人の女の子が倒れて気絶しており、もう一人の男の子が震える手で木の棒を持って目の前の魔物に対峙している光景であった。
グレイはすぐに近くにあった大きめの石を拾うと間髪入れずに魔物へ向かって投げつけた。
ドッ
咄嗟に投げた石は幸運にも魔物に命中する。
グルルルル
すぐさまグレイの方を怒りの形相で見てくる魔物。
「・・・」
何が起こっているのか分からず呆然とする男の子。
「そこの君!早くその子を連れて逃げろ!!」
グレイが大きな声を上げると、はっと我に返った男の子が慌てて行動を開始する。
目の前の魔物は既にグレイのことしか目に入っていないのか男の子達の行動には気にもとめない。
グレイの背が高いこともあってか魔物はすぐには襲いかかって来ない。
(・・・よし、離れたな。さて、子供たちを逃がしたのは良いがこの後どうするか)
グレイは魔物に目を合わせたまま視界の隅に男の子が女の子を担いで移動する様子を見て一度安堵する。
そして、自分がどう対応するかを今更になって考え始めた。
魔物・・・簡単に言えば魔法を使うことが出来る動物である。
目の前の魔物は四足歩行をしている。
簡単に言えば、狼のような魔物であった。
(スピードでは勝てないよな・・・)
正直言って子どもたちが逃げた今となってはグレイには戦う理由が無いので背を向けて逃げ出すのが一番だった。
だが、流石に目の前の魔物に追いかけっこで勝てる自信は無いため、逃げ出す選択肢は除外する。
となれば、
(・・・やっぱり戦うしかないか・・・)
グレイは戦う覚悟を決める。
しかし、
(だが、どう戦う。俺の貧弱な魔法じゃ全く歯が立たない)
グレイには攻撃力が全く持って不足しているのだ。
通常、魔物を倒す時は魔法使いであれば相対する魔物の耐久性以上の魔法で、騎士であれば剣による攻撃で手傷を負わせて倒していく。
だが、グレイにはそのどちらも無かった。
ウゥゥ
グレイが何もして来ない理由が自分への攻撃方法が無いと考えた魔物が威嚇をしながらジリジリと寄ってくる。
(くっ、バレたか・・・だが、ここで後ろに下がるわけにはいかない)
グレイは魔物の行動に焦ったが、思わず後退りしたくなるのを辛うじて堪える。
魔物は少しずつ近づき、グレイに攻撃できる間合いに入ろうとするが、グレイには何も出来ない。
後ろに下がれば好機と見た魔物はすぐにでもグレイに襲ってくるだろう。
(このままじゃ、下がるのと同じだ。・・・腹を括ろう)
グレイは覚悟を決め、拳を強く握りしめた。
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