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第282話

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【・・・主もご承知の通り、あの『看破の試練』が行われる度に我々の同胞の数は減っていきました】

魔人形がグレイの質問に対してぽつぽつと話し始める。

「・・・そうだろうな」

グレイも試練の内容を思い出しながら頷く。

挑戦者に襲い掛かってくる魔人形の中で数秒後に自壊する魔人形を見つけ出し突破するのが『看破の試練』だったからだ。

【我々は初め、何千体も居ましたが今ではここにいる17体になってしまいました】

「・・・」

グレイは魔人形の言葉に何も返せずただ耳を傾ける。

視界の隅でイズが頷いているのが見える。

残りの数からしてグレイが挑んだ時に見た魔人形以外にも待機組が居たのだろう。

【しかしながら、我々は最初にこの場において命令を出した創造主に対して恨むという感情は持ち合わせておりません。この迷宮の踏破者を見い出すという創造主の命令を完遂することが出来たのです。達成した喜びの感情だけしかないのです。・・・ああ、創造主に報告が出来ないことだけは残念ですけど】

魔人形は嬉しそうに語る。そして、

【もちろん、主に対しての恨みなどもございません】

グレイに対してはっきりと告げる。

犠牲を宿命付けられた創造主による命令の達成。その喜びこそあれ恨みなどないと。

「くっ・・・」

グレイは悔しげに声を上げる。

思わず、両拳を力一杯握りしめる。

グレイは理解していた。

たとえ試練の時に、魔人形達に意思があると知ったからといって自分にはどうする事も出来なかったことを。

(もし、その事を知っていたら俺は間違いなく地下99階を経由して地上を目指していただろう・・・だが、その選択肢を取っていれば俺は間違いなくこの迷宮で朽ち果てていたはずだ)

グレイは地下100階のセーフティエリアで生き続ける選択肢を捨て、一縷の望みを賭けて地上に戻るチャレンジをした。

その中で最も可能性がマシな迷宮踏破にチャレンジしたのだ。

もう一つの選択肢である地下99階経由の道を選んだ場合は100%死が待っていただろう。

「グレイ・・・」

グレイの心中を察したアリシアがそっとグレイの左拳に触れる。

「・・・アリシア・・・ありがとう」

グレイはアリシアが自分を心配してくれた事が分かり、礼を言う。

【・・・主はお優しい方なのですね】

魔人形はグレイの様子を見て、何故か温かいものに包まれる気持ちになった。

(我々のような『道具』に対してもここまで心を割いてくれるなんて冷静に考えたら欠点にしかならないでしょう。『看破の試練』を課した創造主もこの事を知れば落胆したに違いありません。ですが・・・何故でしょう。私はとても嬉しく感じます)

『おい、【リーダー】・・・もしや泣いているのか?』

【えっ?】

黙って話を聞いていたイズが目の前の魔人形の目から涙が零れているのに気が付き思わず沈黙を破る。

魔人形はイズに言われて目元を手で触れるとここで初めて自分が泣いていることに気づいた。

【自分でも信じられませんがどうやらそのようですね・・・】

魔人形はイズの言葉を肯定すると周りに控える魔人形達を見渡す。

そして、自分を含めた17体の魔人形達全員が涙を流していた事に気がついたのであった。
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