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第269話

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「・・・こうやって使うのですわね」

アリシアは水晶に手を触れるなりすぐに使い方を理解する。

『アリシアよ、お主ならどこまで行ける?』

アリシアの様子を黙って見ていたイズが尋ねる。

「・・・そうですわね。この脳裏に映る景色の範囲まで行けるという事でしたら・・・」

アリシアは水晶に触れて脳裏に現る映像に集中するために目を閉じる。

「王都までは行けそうですわ」

再び目を開けて答える。

『流石だな』

アリシアの言葉に満足そうに頷くイズ。

一方、その言葉を聞いて驚愕するグレイ。

「え、王都って・・・ここから魔法学園よりも更に離れたところだよな」

『左様。グレイの言う通りだ』

「・・・これが、俺とアリシアの差か・・・俺はこの迷宮から外に出るので精一杯だったって言うのに・・・」

「グレイ。その・・・申し訳ございません」

グレイが目に見えて落ち込む様子を見たアリシアが申し訳なさそうに謝る。

「いや・・・これが現実だから謝らないでいいよ。分かっていた事だからさ」

アリシアの言葉にグレイが首をゆっくりと振る。

「あれ?そう言えば、俺が以前使った時は脳裏に移動できる範囲の映像なんて浮かんで来なかったぞ?」

『・・・ああ。それは、グレイがこの迷宮から離れたところまで転送できる魔力が無かったからだろうな・・・』

グレイの当然の疑問にイズが言いづらそうに答える。

「・・・そうか・・・」



「さ、さぁ、この後はどうされますか?グレイが行きたがっていた村に早速行きますか?」

グレイが現実を受け止める時間のために少しだけ休憩した後、アリシアがグレイに尋ねる。

「ん・・・そうだな。まずは一つこの上の階に行こう。アリシアも見たがっていたし」

アリシアの問いかけにそろそろ気を取り直さないと思ったグレイが返事をする。

「良いのですか?私《わたくし》が見るのはまた今度でも大丈夫ですが」

「うん。もちろん良いよ。そんなに時間はかからないし。イズ。出口ってどっちだっけ?」

アリシアの言葉に返事をしつつ、イズに尋ねるグレイ。

先日来た時とは異なり、出入り口が塞がっていたためどの方向が正解かがグレイには分からなかったのだ。

『こっちだ。付いてくるがいい』

グレイの言葉を聞いたイズが迷いなく壁の方に進んでいく。

「ありがとうイズ。アリシア、行こうか」

「はい!」

グレイの言葉にアリシアが元気よく返事をする。

イズについてグレイとアリシアが壁に向かって歩いて行くと自然と壁の一部が消失し、出口が現れる。

「不思議ですわね。一体どういう仕組みなのでしょうか?」

アリシアは不思議そうに消失した壁を見た後、先に外に出たグレイとイズについて自分も部屋の外に出る。

と、そこで驚きの声を上げた。

「・・・これはもしかして・・・【魔人形】ですか?」

床に転がって動かない人形十数体を見たアリシアは興奮したように声を上げる。

『その通りだ。そして、ここがこの迷宮の最終試練である【看破の試練】が行われてきた場所である』

アリシアの言葉にイズが説明する。

「【看破の試練】・・・この大量の魔人形がグレイを襲ったのですわね。聞いておりました話と実際に見るのはやはり違いますわね」

アリシアは改めて周りを見回し呆然とする。

(最古の戦闘兵器である魔人形が1体でも襲ってくれば村や町の一つや二つはひとたまりもありません。それがこれだけの数襲ってくるだなんて悪夢でしかありませんわ・・・本当にグレイはよく生きて帰ってきてくださいました)

アリシアはグレイが無事に戻ってきたことの凄さを改めて感じ入ったのであった。
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