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第238話

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マーガレットの前の視界が爆炎と煙で遮られる。

ふぅ

(・・・ここまでやれば決着でしょう)

マーガレットは呼吸を整えると魔法を放つために上げていた手を下ろす。

ゾクッ

急にマーガレットの背筋に冷たいものが走る。

ダンッ

嫌な予感の正体を見極める前にマーガレットは体を後方へとやる。

ブワッ

タイミングを同じくして煙を押しのけて出てきたのは対戦相手のグレイ。

体中煤けてはいるが致命傷は見当たらない。

「なっ!?」

マーガレットは後方に下がりながらも驚愕する。

(一体どうやってあれを避けたのよっ!)

慌ててマーガレットはグレイに向けて指を向ける。

「おおおおお!」

グレイは正念場のこのタイミングで両足に身体強化魔法を施す。

速度が増し、一気にマーガレットへと肉薄する。

「ひぃっ!」

ジュッ

マーガレットの魔法がグレイの右鎖骨下あたりに風穴を開ける。

グレイの迫力によって怖れを抱いたマーガレットが行動不能にさせる攻撃ができずに逸れた結果である。

「ぐぅ」

グレイは痛みで叫びだしたくなる衝動を堪え、マーガレットに向かって左拳を振るう。

(この攻撃さえこの攻撃さえ避ければ私《わたくし》の勝ちですわ!)

「あああああっ!」

チッ

マーガレットは声を上げて恐怖を紛らわせるとグレイの右側に行きながらグレイの攻撃を紙一重で避ける。

(やりましたわ!この距離なら外しません!!)

マーガレットは今度こそグレイを倒そうと魔法を放つ準備をする。

だが、マーガレットの攻撃がグレイに向かう事は無かった。

「がぁぁぁぁぁっ!!」

グレイは右側の痛みを大声を上げて無理やり誤魔化し、右拳をマーガレットに向けて振るう。

「っ!?・・・噓でしょ」

そう呟いたことを最後に、マーガレットの意識は闇に沈んだのであった。



「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・」

マーガレットを気絶させたグレイはその場に座り込みながら荒い呼吸を繰り返す。

ユイはグレイの目の前で倒れているマーガレットの所に行くと、

「見事に気絶しているな。勝者、グレイ・ズー!!」

グレイの勝利宣言を声高らかにした。

「グレイっ!大丈夫ですか!!」

ユイの宣言が出るまで堪えていたのだろう、アリシアが直ぐに駆け寄るとグレイの治療をし始める。

「・・・ありがとう・・・ございます。大丈夫・・・です」

グレイは痛みに耐えながらアリシアに礼を言う。

それからしばらくして呼吸が落ち着くまで、息を整えることに集中するグレイ。

「ふぅ。ようやく落ち着きました」

グレイがアリシアを安心させるためにそう言うと、

「グレイ。よくやりましたね。勝利を信じておりましたがいざ目の当たりにすると感動してしまいましたわ」

アリシアが瞳を潤ませながらグレイの目を見て嬉しそうに言った。

「ありがとうございます。これで、アリシア様のご期待にそえましたね」

「ええ、本当に」

アリシアはグレイの言葉にドキッとなるくらい綺麗な笑顔で頷いたのであった。
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