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第230話

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「・・・」

「・・・」

ユイの開始の合図を聞いたナイルとグレイはすぐには動かず無言のまま目を合わせる。

(・・・先程の先生への返答からすると自信があるのか?ゾルムの忠告が無ければこちらの神経を逆撫でするような言葉に平静を失っていたかもしれない。・・・悪いが容赦はしない)

ナイルはグレイの様子からゾルムの忠告に従うことを決意する。

一方、グレイは違和感を感じていた。

(何だ?俺のことを舐めているならすぐにでも魔法が飛んで来そうなものだが・・・)

貴族はプライドの塊のような人間が多い。

先程のユイへのグレイの返事を聞けば、すぐにでも、侮辱されたと思って怒り狂うかと思ったが目の前のナイルにはそういった様子が見られない。

(・・・1試合目から苦戦しそうだな・・・)

ダッ!

グレイは様子見をやめてナイルに向かって走り出す。

「・・・『氷よ』」

ナイルは走り向かってくるグレイに向けて拳大の大きさの氷の塊を複数打ち放ってくる。

「っ!?ちぃっ!?」

だが驚き下がったのはグレイではなく攻撃した側のナイルであった。

グレイは複数打ち出された氷の塊を紙一重で避けナイルに向かって来たからだ。

(なるほど。ゾルゲが忠告する訳だ)

もしグレイの事を平民だと舐めてかかっていたら魔法を放った瞬間に慢心し、やられていたかもしれない。

ナイルは迫ってくるグレイからある程度距離を開けると地面に手を着く。

(何だ?)

グレイはナイルの行動の意味が分からず、少し戸惑うがそのままナイルに向かう。

(グレイ!!)

その様子を見ていたアリシアが声に出せないためグレイの名を心の中で叫ぶ。

その瞬間であった。

「『氷柱よ!』」

グォォォン

避けようもない大きな氷で出来た柱がグレイに向かって直撃する。

「ぐっ・・・」

堪らず吹き飛ぶグレイ。

ドサッ

背中から地面に叩きつけられるようにグレイが倒れる。

「・・・」

ナイルは油断なくグレイを見据えながら、懐から何か液体の入ったビンを取り出し中身を一気に飲み干す。

(ほぅ。魔力回復薬か。ナイル・バールの奴め、グレイ・ズーの事を侮ってはいないようだな)

この予選はもとより【魔法武闘会】に於いても正直言って何でもありである。

当然、魔力回復薬などを途中で飲むのも問題ない。

もっとも、魔力回復薬などは高価であるため、それを用意できるのは裕福な貴族という立場でないと不可能だろう。

【魔法武闘会】ではそう言った生徒個人の金銭面での力も加味される大会なのだ。

「・・・」

ナイルは魔力を回復させつつグレイの様子を伺う。

(流石に今のはまともに食らわせたからな。そうそう立てまい)

しかしナイルのその予想は次の瞬間すぐに覆される。

「・・・何だと?」

ナイルは服こそはぼろぼろながらも立ち上がったグレイを見て驚きの言葉を上げる。

(あっぶねぇー。咄嗟に足を魔法で強化して後ろに跳んでなければ今ので確実にやられていたぞ・・・)

グレイは表情には出さないが内心かなり動揺していた。

(あれは何だ?魔力回復薬か?致命傷を与えたと思っていても深追いすること無く冷静に整えているなんてかなり手強いな)

グレイは深呼吸をし、心を落ち着ける。

正直なところ【エリクサー】を使って体を癒やしても反則ではないが、グレイはそれをするのをなるべく控えようとしていた。

(流石にあれをもう一度食らうのは体力的にも不味い。あいつが手強いと言ってもアリシアほどじゃないだろうから、流石に魔法を同時には使えないはずだ。あいつの動きに注力して隙を突く!)

基本的に魔法を行使できるのは一つずつである。

熟練者になると同時に行使することは可能らしいが同年代でそんな事が出来るのはアリシアくらいなものだろう。

グレイは残りの体力からも短期決戦を挑むため、再度ナイルに向かって走り出した。
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