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第229話

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「・・・」

グレイの対戦相手であるナイルは予選開催場所に向かいながら昨日のことを思い出していた。

『・・・いいか。もし、ナイルが明日の予選でグレイと対戦することがあったら舐めてかからず全力で行くんだぞ』

そう言ったのは一緒に訓練していたゾルゲである。

ゾルゲの得意な魔法である火の系統はナイルの得意な魔法との相性が悪いため敢えて2人で組んで訓練していた。

予選前の最後の模擬戦の後に、お互いの良い点悪い点を話し終え、解散するという時にゾルゲが言いづらそうにして話してきたのが先程の内容である。

『おいおい。ゾルゲがこの前負けたのは運が無かったからだろ?たかだか平民にそこまでする必要はないだろ』

ナイルは余りにも真剣に言うゾルゲに肩を竦めながら言う。

ゾルゲはナイルのリアクションに憐れむように見た後、

『・・・ナイルがどう思おうと勝手だが、これだけは言っておく。俺が負けたのは運が無かったからじゃない。俺は忠告したからな』

そう言って踵を返す。

『おいっ!』

遠ざかっていくゾルゲの背中にナイルが声を掛けるが、ゾルゲが振り返ることは無かった。

『・・・一体何なんだって言うんだ・・・』

その時のナイルはゾルゲの態度に疑問しか無かった。



「・・イル・バール、・・・ナイル・バール聞いているのか!」

「っ!?」

ナイルは自分を呼ぶユイの言葉で我に返る。

「・・・すみません。考え事をしておりました」

ナイルはユイに謝ると慌てて口に手を当てる。

「その様子だと全く聞いていなかったようだな。ひとまず、今はもう喋って構わんから気にしなくて良い」

ユイの言葉でほっとするナイル。

思わず喋ってしまったことで不戦敗になったら今日までの努力が水の泡になる所だった。

「・・・まあ、良い。もう一度言うぞ。今からナイル・バールとグレイ・ズーには試合をしてもらう。相手を気絶させるか降参させたら勝ちだ。あとは何をしても構わん」

ユイがグレイとナイルにルールを説明する。

「先生」

「何だ?ナイル・バール」

「相手が死んでしまった場合はどうなるのですか?」

ナイルは挑発的に対峙するグレイを見てからユイに尋ねる。

「その場合は気絶させるに類するからな。ナイル・バールの勝ちになる」

ユイが淡々とナイルの言葉に答える。

「・・・へぇ。良く分かりました」

ナイルはユイがまさか肯定的な意見を言ってくるとは思っても見なかったため一瞬驚いた後、ニヤリと笑う。

(おう、おう、ナイル・バールのやつめ。嬉しそうな表情をしているじゃないか。まぁ、もしそうなった場合は私が止めるんだがな。わざわざ言わないが)

ユイはナイルの様子を見ながら口には出さずに考えると、この発言を聞いたグレイがどう反応するかが気になり見やる。

(ほぅ。ナイル・バールの先ほどの本気の発言に対して動揺した素振りも無いとはな)

グレイが少なくとも外から見てとれるような動揺をしていないことを確認したユイは感心する。

(どれ、揺さぶってみるか)

ユイはグレイを試す意味も含めて声を掛ける。

「グレイ・ズーよ。正直、単純に見たらお前の勝ち目は薄い。魔法の力の差からすると先ほどナイル・バールが言っていたように死んでしまうかも知れない。今ならまだ降参できるがどうする?」

グレイはユイの方を向くと、

「お気遣いはありがたいのですが、御心配には及びません。試合を開始してください」

全くと言っていいほど平静のまま、先を促してくる。

「ふっ。そうか。なら、これ以上は何も言うまい。アリシア・エト・バルムよ。私の後ろに来い。万が一があるかも知れんからな」

「畏まりました」

アリシアがユイの後ろに移動しながら、グレイに向かって頷く。

(グレイ、頑張って)

グレイもアリシアの意図を理解して頷き返す。

(ありがとう。アリシア)

「よし。それではこれより、グレイ・ズーとナイル・バールの試合を開始する!」

ユイが試合開始を宣言した。
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