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第222話

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「おはようございます。アリシア様」

「おはようございます。グレイ」

翌朝、グレイがいつものように貴族女子寮の前でアリシアを待っているとしばらくしてアリシアがやってきた。

(今日も綺麗だなぁ・・・)

グレイはアリシアを眩しそうに見てそう思った後、近づいてきたアリシアに挨拶をする。

ちなみにイズは姿を隠した状態でグレイの左肩にいる。

「では、参りましょうか」

「はい。アリシア様」

周りに人がいるため、外向けの言葉で返事をするグレイ。

「ちっくしょう。何であんな平民がアリシア様の傍にいるんだよ!」

「ふざけやがって」

「何よ、あの平民。私たちの憧れのバルム様を独り占めにしちゃって」

相変わらず聞こえてくる嫉妬からくる言葉を聞き流しながらグレイはアリシアの後について行く。

(ただ、周りから言ってくるだけなら問題ない。手を出してくるにしても俺にだけなら問題ない。アリシアに対して何かをする奴がいないかだけは注意するんだ)

グレイは自分自身にそう言い聞かせながら周囲の警戒だけは怠らない。

すると、左肩が段々と痛くなっていることに気づく。

(・・・いてて。イズ、力を緩めてくれ)

目では見えないが確かに存在は感じられるイズに向かってグレイは力を緩めるように願いながらグレイを撫でる仕草をする。

すると、イズも力をこめ過ぎていた事に気が付いたのか力を緩めてくれる。

(ふぅ。ありがたいことに、俺以上に俺の事を思ってくれているんだな)

グレイはイズがグレイに浴びせられた言葉を聞いて、腹を立ててくれたのだと悟る。

「さんきゅ」

グレイがイズにしか聞こえないくらいの声量で礼を言うと、再びアリシアの方に視線を向ける。

「きゃあああ、アリシア様!!」

「なんてお美しいんだ」

「ああ。お近づきになりたい」

男女問わず、アリシアに向けて興奮した様子を向けてくる。

アリシアは微笑を浮かべながら、右手を軽く振りながらその間を通っていく。

グレイはアリシアの堂々とした姿と人気を誇らしく見ながらついていくとふと、アリシアの左手が白くなるくらい握りしめられていることに気が付いた。

(あれ・・・アリシアも俺のために怒っているんだよな?)

グレイはアリシアの気持ちに気づき、嬉しく思うと同時に心配になった。

(左手、血とか出ないよな・・・)

いざとなれば【エリクサー】で治せば良いとは思いつつ、アリシアの左手が気になって仕方が無くなってしまった。

ちなみに訓練室に行くまでの間、アリシアの左拳が解かれることは無かった。



ガチャ

グレイとアリシアが訓練室に入ると直ぐに扉の鍵を内側から閉める。

そして、グレイはアリシアの近くにより、左手を両手で前に持ってくる。

「グ、グレイ??」

アリシアにとっては突然のグレイの行動に思わず慌てた声を出す。

グレイは気にせず、アリシアの左拳を優しくひろげると、

「ふぅ。良かった。血は出てないみたいだな」

爪痕はついているものの血が出てないことを安心する。

「俺のために、怒ってくれるのは嬉しいけど、アリシアが傷つくのは見ていられないからな」

アリシアに向けて、お願いをするグレイ。

「・・・気づいていたのですね」

アリシアはグレイが心配してくれていたことを喜びつつ、呟く。

「グレイが馬鹿にされているのが許せなくてつい・・・」

「ありがとう。すぐには何とかならないかもしれないけど頑張るよ。我慢させてごめん」

「気になさらないでください。グレイが謝ることではありませんわ」

アリシアが返事をするといつの間にか姿を見えるようにしたイズが、

『・・・お主、いつもあんな感じで言われているのか?話には聞いていたが我も思わず怒りを覚えてしまったぞ』

わなわなしながら続ける。

「イズも気にしないでくれ。その内俺の左肩が血だらけになるからさ」

グレイが少しおどけたように言うとイズは器用に肩を竦める動きをし、

『汝は我の主人のようなものなのだからな、早くなんかするのだぞ。でなければ、お主の肩は原型を留めぬものと思うがいい』

恐ろしいことを言ってくる。

「うっ・・・分かったよ。ところでアリシアの所にもエルから手紙が来ていたりした?」

グレイはこの話題を続けるのを避けるため、話を変える。

アリシアは頷くと、

「はい。昨夜届きましたわ。ユーマリアさんの件に関する御礼の言葉と現在も安定して具合が良いことが綴られておりましたわ」

「そうか。なら、俺の所に来た手紙と内容は同じみたいだな」

「そうですか、グレイのところにも手紙が来ていたのですね。エルリックさんの手紙を読んでいて思ったのですが・・・もしかしたらグレイがユーマリアさんを治したことに気づかれているかもしれません」

アリシアが自分の考えを述べる。

「・・・いや、あり得ないだろ・・・」

グレイはそんな馬鹿なと思いながら否定する。

「分かりませんわよ。エルリックさんはグレイさんのことをよくご存じですからね。そういう事に気づいてもおかしくありませんわ」

やけに確信めいたようにアリシアが言う。

「ですが、そう思っていたとしても口に出して言ったりはしないと思いますので安心してよろしかと思います」

「そうか。なら、この話題は終わりにしてまずは勉強かな」

グレイはアリシアの言葉にほっとしながら応える。

『・・・何でもいいが、お前たちいつまで手を握っているんだ?』

イズが少し呆れながら呟く。

「「あっ」」

イズに指摘されたグレイとアリシアはずっと手を握っていたことに初めて気が付き、慌てて手を引っ込めたのであった。
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