他人の寿命が視える俺は理を捻じ曲げる。学園一の美令嬢を助けたら凄く優遇されることに

第175話

（では、これなら如何でしょうか？）

アリシアは肉薄してくるグレイに向かって手を向ける。

「【雷】よ！」

「っ！？」

グレイはアリシアが放つ魔法名を聞いた瞬間、回避行動へ移るが、雷は炎とは比べ物にならないスピードであるため、避けきれずに被弾する。

「ぐぅ」

思わず、呻くグレイ。

アリシアは敢えて威力を絞ったため、グレイの肉を焼くことはないが動きの自由を奪う。

（痺れた状態の今なら、避けられないはずですわ！）

アリシアは身動きの取れないグレイに向かって、更なる魔法を放つ。

「【氷】よ！」

ビキビキビキ

少し耳に残る音を出しながら、アリシアとグレイの間を凍らせて行く。

（これで、終わりですわ）

アリシアは完全に勝利を確信した。

ビキィィィィ

氷の魔法が対象物に当たり凍らせる。

「えっ？」

しかし、アリシアは予想の結果と異なり呆然と呟く。

そして、一瞬思考を止めてしまった。

「おぉぉぉぉぉぉ！！！」

氷のオブジェと化した物体の陰からグレイが飛び出る。

「くっ！」

ここにきてアリシアは我に返るが、グレイとの距離が近すぎて魔法を放つことができない。

（それならば！）

アリシアは咄嗟に【身体強化魔法】を自身に掛けて前に出る。

「っ！？」

これには今度はグレイが一瞬動揺する。

ゴッ

グレイの打ち下ろすような右拳とアリシアの打ち上げるような右拳がぶつかり鈍い音が響く。

「おぉぉぉぉぉっ！！」

グレイはぶつかり合った右拳を突き合わせた状態のまま、体をアリシアの方に向かわせ左拳でアリシアの右わき腹を狙う。

ドシン

「へっ」

しかし、次の瞬間にはグレイが地面に倒れていた。

「ふぅ。・・・勝負あり・・・ですわね」

アリシアが汗を拭いながら仰向けで寝っ転がっているグレイに向けて勝利宣言をしたのであった。



「・・・まいった。やっぱり、アリシアには適わないなぁ」

自身に何が起きたのか分からないグレイだったが、自分が負けたことは理解できたのですんなりと負けを認める。

「いえ、今回は偶々ですわ。どうぞ、お掴まりください」

アリシアは倒れているグレイに向かって左手を差し出す。

「ありがとう」

グレイは素直にアリシアの左手を握り、体を起こしてもらう。

小さくて綺麗な手だ。

（柔らかいな。・・・体格的には俺の方が有利なのに、完敗だ）

手の大きさからも明らかな事実を理解しながらグレイは負けを素直に心に刻む。

「・・・さて、反省会をしましょう」

アリシアはグレイにそう言うと先ほどの戦いの反省を行おうとする。

「わかった。・・・でもその前に、右手を見せて」

「っ！？・・・わかっていらしたのですね」

グレイの言葉にアリシアはおずおずと右手を出す。

アリシアの綺麗な右拳は、グレイとの衝突で真っ赤に腫れていた。

「まあね」

グレイは右利きのアリシアが自分を起こす時に左手を差し出したり、さり気無く右手を体の後ろに隠していることを見て直ぐに気が付いた。

グレイはアリシアの右手を優しく支えると、【エリクサー】を使って治す。

効果はすぐに表れ、アリシアの右拳の腫れは見る見るうちに治ってしまった。

「ありがとうございますわ。相変わらず、凄いですわね」

アリシアはグレイに素直に礼を言い、【エリクサー】の効果に改めて感心したのであった。