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第170話

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「さて、これがこの部屋の鍵だ」

ユイがアリシアに訓練室の鍵を手渡す。

「ありがとうございます」

アリシアが御礼を言いながら鍵を受け取る。

「他の生徒にも後で伝えるが来週の火曜日までは無理に教室に顔を出す必要はないぞ。好きなタイミングで登校し、そして下校して構わない」

ユイの言葉には生徒に対する信頼が込められていることが分かる。

生徒によってはユイのこの放任のような言葉に腹を立てるかもしれない。

だが、大多数の生徒はこう思うだろう。

ユイが生徒の自主性を誰よりも重んじているのだと。

「本当は、アリシア・エト・バルムの場合は来週の火曜日も教室に来なくても良いのだが共に【魔法武闘会】に参加する他の2人が決まる日だからな、来てもらった方が良いだろう」

「はい。もちろんお伺いしますわ」

アリシアも同級生との力量比較は必要だと考えているためユイの提案に素直に頷く。

ユイはアリシアの返事に満足したように頷くと、

「よろしく頼む。では、私は行く。戸締まりだけはしっかりとな」

出口に向かう。

扉に手をかけた時、ユイは一度アリシア、そしてグレイを見てこういった。

「グレイ・ズーよ。いくらこの部屋が優れた防音性があるからと言ってアリシア・エト・バルムに変なことをするなよ?」

「っ!?しませんよっ!!」

グレイはまさかな言葉に動揺しながら即答する。

アリシアはユイの言葉に動揺すること無くただ細い目で見つめる。

その目は、「変なことを言っていないでお帰りください」と言っているようだった。

ユイはそんな2人の反応をくっくっと笑った後、

「ではな」

と言って外に出ていった。

「ふっ・・・まさか、今日の今日で私に相談に来るとはな」

ユイは訓練室を後にしながら呟く。

恐らく、1週間後の選抜の後になって初めて【魔法武闘会】参加者の内の誰かが相談に来るかと思っていたのだ。

あらかじめ訓練室自体を3部屋確保していたもののこんなにも早く鍵を渡すとは思っていなかった。

「アリシア・エト・バルム。やはり噂に違わず優秀なようだな」

ユイはアリシアの前評判を思い出しながら呟く。

成績優秀、多大な魔力量を保有し、並外れた格闘センスも持つ才女。

それでいて家柄も高く、3大貴族であるバルム家の長女。

さらに性格も容姿も良いというまさに完璧な少女であると。

そこまで思い返し、ユイはふと考える。

「・・・グレイ・ズー。君は一体何者なんだ?」

たった数ヶ月前から急速にアリシアの周りに現れた平民の少年。

はっきり言ってユイはアリシア以上にグレイに対して興味があった。

教諭の間でもアリシアの付き人になったグレイの話は噂として回っていた。

だか、ユイとしては初めは大して気にはなっていなかったのだ。

しかし、平民にして初めて【魔功章】を授かり、一月と少し前のゾルゲとの【決闘】を目の当たりにしたユイは今までとはガラリと変わり、グレイに対しても一目を置くようになっていたのだ。

「もしかしたら、今回の訓練室の話も君が発端なのかもな。まあ、どちらにしても来週の選抜の日を楽しみにしているぞ」

ユイはにやりと笑うと、

「さて、他の生徒の様子でも見に行くか」

そう呟いたのだった。
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