上 下
158 / 339

第157話

しおりを挟む
「おはようございます」

「おはようございます、アリシア様」

「おはようアリシア」

グレイがアリシアの少し後ろをついて歩き、久しぶりのS組の教室に入ると、人気者であるアリシアに対して色々な人が挨拶をする。

アリシアはそれに逐一挨拶を返しながら、席に進む。

(流石、アリシアだ。S組であろうともその人気は陰ることはないな)

グレイはアリシアが教室に入っただけで部屋の明るさが増したようにさえ感じ、誇らしい気持ちになる。

一方、

「おい・・・あいつ・・・」

「ほんとだわ。長期間休んでいて良く顔出せたものだ」

「アリシア様はお優しい。長期間不在だった癖に再び傍に置いているなんて」

「平民の癖に生意気な」

グレイの姿を認めたクラスメイト達は聞こえていないとでも思っているのかコソコソと好き勝手に物を言う。

(・・・いや、あれはわざと聞こえるように言っているな)

グレイは希望的観測は捨て、事実を受け入れる。

よそ見をしていたグレイがふと、アリシアの方に目を向けると立ち止まっているのが目に入る。

そして、若干ではあるが肩が震えているのが見て取れた。

「・・・気にしないで良いですよ」

「ですが・・・」

グレイはアリシアが自分のために起こっていることに気が付き、先手を打つ。

アリシアは振り向きながら言うがグレイは首を振ると、

「私の事はお気になさらないでくださらなくて大丈夫ですよ。さぁ、座りましょう」

席に座ることを促す。

(アリシアが俺のために怒ってくれるのはとても嬉しいが、もしアリシアが何かを言っても一旦は納まるが、少し経てばより一層激しくなるに違いない)

「・・・分かりましたわ。そうしましょう」

アリシアはグレイの言葉に不満そうな様子を一瞬だけ見せたが、すぐに同意すると席に向かう。

アリシアが座った後、グレイは、

(さて・・・困ったぞ・・・)

呆然とする。

(席どこだっけ・・・)

グレイはこの一月ちょっとの間に色々あり過ぎて自分の席の場所などすっかりと忘れていた。

S組に入ってから通っていた日数よりも不在だった日数の方が圧倒的に多い。

席を忘れていてもおかしくはなかった。

(どうしよう。今のクラスの雰囲気の中でアリシアに聞くのは俺を蔑むきっかけになってしまうかもしれない)

グレイは席に着いたアリシアの前でじっと佇むことしかできない。

アリシアはグレイのことを悪く言われ、内心で腹が立っていたため気づくのが遅れたが、目の前にグレイが相変わらず立っていることに気づく。

(・・・グレイ?)

どうしたのだろうとキョトンとする。

アリシアはじっとグレイを見つめる。

見つめ返してくるグレイ。そこには焦りの色が見えた。

(グレイが困っているようですわ・・・もしかして・・・)

アリシアはグレイが呆然としている理由について察すると、

「私《わたくし》はもう大丈夫ですからあなたも隣にお座りになって」

と左側の席を見ながら促す。

「畏まりました」

グレイはほっとした様子を見せながらアリシアの左隣の席に着く。

(た・・・助かった。後で感謝を示しておこう)

グレイはまずは心の中でアリシアに感謝した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

支援者ギルドを辞めた支援術士の男、少年の頃に戻って人生をやり直す

名無し
ファンタジー
 30年もの間、クロムは支援者ギルドでひたすら真面目に働いてきた。  彼は天才的な支援術士だったが、気弱で大のお人よしだったため、ギルドで立場を作ることができずに居場所がなくなり、世渡りが上手かった狡賢いライバルのギルドマスターから辞職を促されることになる。  ギルドを介さなければ治療行為は一切できない決まりのため、唯一の生き甲斐である支援の仕事ができなくなり、途方に暮れるクロム。  人生をやり直したいが、もう中年になった今の自分には難しい。いっそ自殺しようと湖に入水した彼の元に、謎の魚が現れて願いを叶えてくれることに。  少年だった頃に戻ったクロムは、今度こそ自分の殻を破って救えなかった人々の命を救い、支援者としての居場所を確保して人生を素晴らしいものにしようと決意するのだった。

大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば
ファンタジー
剣があって、魔法があって、けれども機械はない世界。妖魔族、俗に言う魔族と人間族の、原因は最早誰にもわからない、終わらない小競り合いに、いつからあらわれたのかは皆わからないが、一旦の終止符をねじ込んだ聖女様と、それを守る5人の英雄様。 それが約50年前。 聖女様はそれから2回代替わりをし、数年前に3回目の代替わりをしたばかりで、英雄様は数え切れないぐらい替わってる。 英雄の座は常に5つで、基本的にどこから英雄を選ぶかは決まってる。 俺は、なんとしても、聖女様のすぐ隣に居たい。 でも…英雄は5人もいらないな。

伝説となった狩人達

さいぞう
ファンタジー
竜人族は、寿命が永い。 わしらの知る限りの、狩人達の話をしてやろう。 その生き急いだ、悲しき物語を。

大好きな母と縁を切りました。

むう子
ファンタジー
7歳までは家族円満愛情たっぷりの幸せな家庭で育ったナーシャ。 領地争いで父が戦死。 それを聞いたお母様は寝込み支えてくれたカルノス・シャンドラに親子共々心を開き再婚。 けれど妹が生まれて義父からの虐待を受けることに。 毎日母を想い部屋に閉じこもるナーシャに2年後の政略結婚が決定した。 けれどこの婚約はとても酷いものだった。 そんな時、ナーシャの生まれる前に亡くなった父方のおばあさまと契約していた精霊と出会う。 そこで今までずっと近くに居てくれたメイドの裏切りを知り……

神殿から追放された聖女 原因を作った奴には痛い目を見てもらいます!

秋鷺 照
ファンタジー
いわれのない罪で神殿を追われた聖女フェノリアが、復讐して返り咲く話。

その男に触れるべからず ~過去にやらかし過ぎた最強男の結婚生活 反省しているので化け物呼ばわりは勘弁してください~

福郎
ファンタジー
異世界に転移し、ビビりながらも駆け上がったのは昔の話で、今ではすっかり落ち着いてしまった中年男。 しかし、情熱の火は消えかかっているが、心の優しさは今も健在!泣き付かれたり悲しい顔を見るとつい助けてしまう。 そんな男が、偶々助けたエルフやダークエルフの女性と恋に落ちて共に暮らす、異世界結婚生活譚が開幕! 狂った精霊を殴り殺し蟲の王を踏み殺し悪魔を蹴り殺し竜の首をねじ切る。 あまりの強さ故に、各地に今も残る大穴や、消し飛んだ山々を作った張本人であり、まさに歩く災害そのもの。 舞台を去って久しいが、強者や裏社会の者にとっては未だに恐怖の代名詞! 彼らにとってそんな男へのルールは一つ。触れるべからず。 『カクヨム』様 『ツギクル』様 『小説家になろう』様でも掲載しております。

復讐、報復、意趣返し……とにかくあいつらぶっ殺す!!

ポリ 外丸
ファンタジー
強さが求められる一族に産まれた主人公は、その源となる魔力が無いがゆえに過酷な扱いを受けてきた。 12才になる直前、主人公は実の父によってある人間に身柄を受け渡される。 その者は、主人公の魔力無しという特殊なところに興味を持った、ある施設の人間だった。 連れて行かれた先は、人を人として扱うことのないマッドサイエンティストが集まる研究施設で、あらゆる生物を使った実験を行っていた。 主人公も度重なる人体実験によって、人としての原型がなくなるまで使い潰された。 実験によって、とうとう肉体に限界が来た主人公は、使い物にならなくなったと理由でゴミを捨てるように処理場へと放られる。 醜い姿で動くこともままならない主人公は、このような姿にされたことに憤怒し、何としても生き残ることを誓う。 全ては研究所や、一族への復讐を行うために……。 ※カクヨム、ノベルバ、小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...