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第151話

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「さて、これで大丈夫ですわ」

ゾルムだけでなく学園長宛の手紙も書き終えたアリシアがペンを起く。

「ありがとう。アリシアさん」

手紙を書く邪魔をしてはいけないと思い、イズと静かに外を眺めていたグレイが礼を言う。

「とんでもないですわ」

アリシアは大したことが無いように答える。

「学園長先生にも手紙を書いたのは魔法学園に戻るのが遅くなるからだよね?どんな内容にしたの?」

グレイが気になって尋ねる。

「グレイさんの仰る通りですわ。内容はエルリックさん達に説明した通りですわね。そうしないとこんなにも早く魔法学園に戻った理由を説明できませんから」

「それもそうだね。助かる。ありがとう」

『たかだか【魔力過大病】くらいでかな労力を使うのだな。本当に現代の魔法レベルは衰退したものよ』

話を聞いていたイズが面倒そうに呟く。

「ははは・・・」

「もしかしてイズさんの時代は【エリクサー】を使わずとも魔法で治せたのですか?」

グレイが乾いた笑い声を上げる傍らで、アリシアが興味本位で尋ねる。

『もちろんだ。【エリクサー】を作れる連中だぞ?それと同等の魔法を使えないわけがあるまい。まあ、残念ながら我は使うことは出来ぬがな』

イズが淡々と答える。

「それは素晴らしいですわね!・・・イズさんが使えないのは残念ですわ」

アリシアが驚きを表した後、残念そうに呟く。

『我は迷宮管理に特化していてな。それ以外でできるのは防御系統と環境に作用する魔法くらいなのだ。そのため、回復系統や攻撃系統は殆ど使えない』

イズが事実を答える。

環境に作用する魔法とは防音の魔法などのことだろう。

「そうだったのですね」

アリシアはイズのこれまで使った魔法を思い浮かべ、納得する。

『だが、魔法の効果を上げる方法は分かるぞ』

「本当ですか!?」

イズが続けて話した言葉にアリシアは驚く。

『ああ。というか、アリシアならすぐ気づくと思うがな』

イズは何かを思い出しながら断言する。

「私《わたくし》なら・・・ですか?」

アリシアが首を傾げる。

「・・・」

グレイはいずれにしても回復魔法を使えるとは思っていないので黙ってアリシアとイズのやり取りを聞くことに徹する。

『そうだ。アリシアがグレイに教えた身体強化の魔法があっただろう?あれは体のポイントとなる部位に対して魔力を集めることで強化をするものだ。では、魔法の効果を上げるにはどうしたら良い?』

イズがまるで生徒に教えを諭すかのようにアリシアに尋ねる。

アリシアは面白そうに考え始め、

「単純に魔力を集中させるというわけではないはずですわ。身体強化魔法を習得する傍らで魔法の威力アップに転用してみたことがありますから・・・効果の範囲を広げるという意味では上がりますが効果自体は上がりませんでした」

ぽつりと呟く。

それを聞いていたグレイは、

(となると、俺がやっているあの訓練方法は身体強化魔法の習得には適しているというわけだな)

自分のやっていることが間違っていないと確信する。

それなら教えて欲しいと内心で思ったが、

(・・・きっとアリシアさんとしては身体強化魔法ができてこその魔法の効果範囲アップなんだろうな・・・どちらも簡単で逆の発想をする必要が無かったから思いつかなかったに違いない)

ひとり納得する。

アリシアにとってはどちらも思いついてしまえば同じくらい簡単なことなのだ。

だからこそ、魔法の効果範囲アップの訓練方法は思いつかなかったに違いない。

(もしくは俺の魔力量を気にして言わなかったかだな)

身体強化魔法であれば魔力の消費は魔法を放つのに比べて殆ど無いみたいなものらしい。

グレイは【エリクサー】という裏技を使っているが普通なら考えつかないだろう。

グレイが納得していると、アリシアが口を開く、

「もしかして『密度を上げる』ですか?」

『そうだ。アリシアは凄いな。センスがある』

イズはアリシアを褒めた後、説明を続ける。

『魔法は魔力を通常よりも集中させる事でした効果範囲を上げる。そして効果自体を上げるためには魔法に決められている魔力の密度を高めることで達成できる』

「ありがとうございます。今度試してみますわ」

アリシアが嬉しそうにイズに礼を言う。

(良いことを教えて頂きましたわ。私《わたくし》はまだ強くなれます。いつまでもグレイさんに守られてばかりでは参りません。今度は私《わたくし》がグレイさんを守る番ですわ)

アリシアは意外なタイミングで教えて貰った強くなるための切っ掛けを喜んだ。
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