上 下
144 / 277

第143話

しおりを挟む
「あー、うん。確かにその方法も考えたんだけど・・・」

エルリックが言いづらそうにアリシアを見る。

アリシアはピンと来ていないのかエルリックの戸惑いの理由が分からず首を傾げる。

その様子を見たエルリックは、

(アリシアさんが自覚してないなら話してもいいかな)

と考え、

「グレイが居なくなってからのアリシアさんって、とんでもない位近寄り難くなっていてね。とても話しかける雰囲気じゃなかったんだ」

「えっ?」

エルリックの言葉にグレイは驚き、アリシアを見る。

「・・・」

アリシアは想定外の言葉を聞いて明らかに動揺していた。

グレイ、エルリック、そしてユーマリアも自分に注目していることに気づいたアリシアは、

「そ、そうでしたか。それは、失礼致しました」

と言われてみると心当たりがあるのか軽く頭を下げる。

「気にしないで大丈夫。僕もグレイが居なくなってかなり気を落としていたから気持ちは分かったし」

アリシアの言葉にエルリックがフォローする。

「・・・何かすまん」

グレイは自分の所為でエルリックがあのような方法しか取れなかったことを理解し、謝るが、

「「グレイ(さん)は悪くない(ですわ)!」」

と間髪入れずにアリシアとエルリックが否定して来る。

「そ・・・そうか」

二人の勢いに押される感じでグレイが呟いたのであった。



「グレイさん。では、そろそろ戻りましょうか?」

話も一段落したこともあり、アリシアがグレイに声を掛ける。

「そうだね」

グレイはアリシアに返事をすると席を立つ。

「え?もう行っちゃうの?今ここで二人を返してしまったら父はまだしも母に怒られてしまうのだけど・・・」

「そうですわ。アリシア様もグレイ様ももう少しいてくださいませ」

エルリックとアリシアがアリシアとグレイを引き留める。

アリシアとグレイは顔を見合わせた後、

「お二人の気持ちはとても嬉しいのですが、余り長居をする訳には参りませんので失礼致しますわ」

アリシアが代表して断る。

「・・・そうなんだ・・・なら仕方がない。ユーマリア、また今度来て貰うことにして今回は諦めよう」

エルリックは納得の意思を示し、ユーマリアに対して諭すように言う。

「・・・畏まりました」

ユーマリアはまだ納得しきれていなかったが兄の言葉に従う。

そして、アリシアとグレイの方を向くと、

「アリシア様、グレイ様、必ずまた遊びに来てくださいませ。私はその日を楽しみに待っております」

「もちろんですわ」

「畏まりました!」

アリシアとグレイは快く返事をしたのであった。



「行ってしまわれました・・・」

グレイとアリシアの乗った馬車が屋敷から離れて行く。

1日も経たない間にアリシアとグレイのとてつもない大きな物を貰ったユーマリアは感慨深げに呟く。

「そうだね・・・」

まだしばらくはユーマリアの側にいるつもりのエルリックが同じような気持ちで同意する。

「また、お会いしましょうアリシア様、グレイ様」

(今度お会いする時には沢山お話しましょうね)

ユーマリアは衰えた肉体を早く取り戻して二人に再会することを強く願ったのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【本編完結】αに不倫されて離婚を突き付けられているけど別れたくない男Ωの話

雷尾
BL
本人が別れたくないって言うんなら仕方ないですよね。 一旦本編完結、気力があればその後か番外編を少しだけ書こうかと思ってます。

あなたの愛はいりません

oro
恋愛
「私がそなたを愛することは無いだろう。」 初夜当日。 陛下にそう告げられた王妃、セリーヌには他に想い人がいた。

双子の転生者は平和を目指す

弥刀咲 夕子
ファンタジー
婚約を破棄され処刑される悪役令嬢と王子に見初められ刺殺されるヒロインの二人とも知らない二人の秘密─── 三話で終わります

異世界王女に転生したけど、貧乏生活から脱出できるのか

片上尚
ファンタジー
海の事故で命を落とした山田陽子は、女神ロミア様に頼まれて魔法がある世界のとある国、ファルメディアの第三王女アリスティアに転生! 悠々自適の贅沢王女生活やイケメン王子との結婚、もしくは現代知識で無双チートを夢見て目覚めてみると、待っていたのは3食草粥生活でした… アリスティアは現代知識を使って自国を豊かにできるのか? 痩せっぽっちの王女様奮闘記。

転生悪役令嬢の考察。

saito
恋愛
転生悪役令嬢とは何なのかを考える転生悪役令嬢。 ご感想頂けるととても励みになります。

伯爵令嬢は婚約者として認められたい

Hkei
恋愛
伯爵令嬢ソフィアとエドワード第2王子の婚約はソフィアが産まれた時に約束されたが、15年たった今まだ正式には発表されていない エドワードのことが大好きなソフィアは婚約者と認めて貰うため ふさわしくなるために日々努力を惜しまない

愛する寵姫と国を捨てて逃げた貴方が何故ここに?

ましゅぺちーの
恋愛
シュベール王国では寵姫にのめり込み、政を疎かにする王がいた。 そんな愚かな王に人々の怒りは限界に達し、反乱が起きた。 反乱がおきると真っ先に王は愛する寵姫を連れ、国を捨てて逃げた。 城に残った王妃は処刑を覚悟していたが今までの功績により無罪放免となり、王妃はその後女王として即位した。 その数年後、女王となった王妃の元へやってきたのは王妃の元夫であり、シュベール王国の元王だった。 愛する寵姫と国を捨てて逃げた貴方が何故ここにいるのですか? 全14話。番外編ありです。

虚弱で大人しい姉のことが、婚約者のあの方はお好きなようで……

くわっと
恋愛
21.05.23完結 ーー 「ごめんなさい、姉が私の帰りを待っていますのでーー」 差し伸べられた手をするりとかわす。 これが、公爵家令嬢リトアの婚約者『でも』あるカストリアの決まり文句である。 決まり文句、というだけで、その言葉には嘘偽りはない。 彼の最愛の姉であるイデアは本当に彼の帰りを待っているし、婚約者の一人でもあるリトアとの甘い時間を終わらせたくないのも本当である。 だが、本当であるからこそ、余計にタチが悪い。 地位も名誉も権力も。 武力も知力も財力も。 全て、とは言わないにしろ、そのほとんどを所有しているこの男のことが。 月並みに好きな自分が、ただただみっともない。 けれど、それでも。 一緒にいられるならば。 婚約者という、その他大勢とは違う立場にいられるならば。 それだけで良かった。 少なくとも、その時は。

処理中です...