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第139話

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「・・・」

グレイは突然のことに言葉が出ない。

『・・・』

見かねたイズがグレイの左頬を優しくつつく。

「っ!?」 

グレイはイズのお陰で我に返ると、

「顔をお上げください!困ってしまいます!!」

慌てて、執事にそうお願いした。

「しかし・・・」

グレイの言葉を聞いてなお、執事は顔を上げようとしない。

「ユーマリア様を治療したのは私ではありません。アリシア・エト・バルム様です。そして、今朝のあなたの私への応答は礼を欠いたものでは決してありませんでした!」

グレイは執事に頭を上げてもらおうと、少し強めに言い放つ。

「・・・畏まりました。寛大な御心遣いありがとうございます」

執事は、自分の中で何かしら納得したのか、もう一度だけ頭を下げ、すっと立ち上がる。

「一つだけ、言わせてください。ユーマリアお嬢様を直接治療してくださったのはバルム様かも知れません。ですが、バルム様にユーマリアお嬢様を治療させようと思わせてくださった上、このお屋敷までお連れくださったグレイ様もまた大恩人でございます」

執事が、グレイの目を真っ直ぐ見てからそのように言う。

「・・・畏まりました」

(おかしいな。アリシアさんが治したということにして貰っているのに感謝されてる・・・)

グレイは想定外の状況に戸惑いながらもひとまず了承の意を示した。

「それでは、食堂にご案内致します。どうぞこちらへお越しください」

グレイは案内をしてくれる執事の後をついて行った。



「こちらで御座います」

執事に案内をされて十分弱。

特に会話という会話は無く、ただただ歩いたところに食堂はあった。

会話が無くとも苦ではないのは廊下が歩く者を飽きさせないように工夫を懲らしているからであろう。

「ありがとうございます」

グレイはここまで案内してくれた執事に礼を言う。

(あ、名前聞いておけば良かったかな。まあ、良いか。次に機会が有ったときで)

グレイは一瞬そんな事が頭をよぎるが切り替える。

「とんでもありません。では、入りましょう」

執事はそう言うと食堂の扉をノックする。

コンコンコン

そして、

「失礼致します」

まず執事が先に入る。

「エルリック様、ユーマリアお嬢様、グレイ様をお連れしました」

執事は食堂の入口で頭を下げると、グレイを中に誘導する。

「グレイ!」

「グレイ様!」

グレイが中に入ると、エルリックとユーマリアの二人が駆け寄ってくる。

「おはようございますエルリック様。おはようございますユーマリア様」

グレイは他の執事やメイドの目もあるため、普段は様付けなんてしないエルリックに対しても様をつけ頭を下げて挨拶をした。
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