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第133話

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「・・・」

朝の日差しを顔に受け、ユーマリアは目を覚ます。

「・・・エルリックお兄さま」

ユーマリアはベッドの端に頭を載せて寝ているエルリックの姿を見て呟く。

ずっと自分の様子を見ていてくれたのだろう。

エルリックの優しさに嬉しくなるユーマリア。

「あれ?」

ユーマリアは自身の体が異常に軽いことに気がつく。

恐る恐るベッドの端に移動し足を地面につけるとゆっくりと体を起こしていくそしてついには立ち上がることに成功する。

「夢じゃ無かったんだ」

ユーマリアは昨日の出来事を思い出し、あれが本当にあったことなのだとはっきりと理解した。

過去にも何度もあったのだ。

治った!と思って目が覚めると体の調子は相変わらず悪くてがっかりするという気分になるという事が。

ゆっくりと窓の傍まで歩き、外の景色を眺める。

そんな小さな事が出来るというただそれだけでユーマリアはとても喜んだ。

そして、自然と涙が溢れる。

「・・・ユーマリア」

そこで背中から声を掛けられる。

ユーマリアはゆっくりと振り向く。

「エルリック兄さま」

「本当に・・・治ったんだね?」

名前を呼ばれたエルリックは嬉しい動揺の余りよろけながらもユーマリアの方に近づく。

「・・・はい。今までのことが夢であったかのように体が軽いです」

「ユーマリア!」

エルリックは思わずユーマリアを抱きしめる。

「良かった・・・本当に・・・」

エルリックの肩が震える。

泣いてくれているということに気づいたユーマリアはより一層涙を流しながら、

「ありがとう・・・・ございます。長い間ご心配をお掛けしました」

「いいんだよ。気にしないで」

ユーマリアとエルリックはしばらくの間、この奇跡を喜びあったのだった。



「朝ご飯は食べられそうかい?」

落ち着いたエルリックがユーマリアに尋ねる。

「はい。大丈夫だと思います」

ユーマリアは自身の体調を考えながら答える。

エルリックはユーマリアの答えに嬉しそうに微笑むと、

「なら、行こうか。肩を貸そうか?」

「いえ、一人で歩いてみたいです」

「分かったよ。倒れそうになったらすぐ支えるからね」

「ありがとうございます」

久しぶりに体を動かすユーマリアは見ている者を非常に不安にさせた。

部屋を出た後には執事やメイドがユーマリアのことに気づき、どんどんと人が増えていく。

食堂につく時には屋敷中の執事やメイドに見守られ、中に入った時には、

「ユーマリアお嬢様、やりましたね!」

「本当に良かったです!!」

「私、嬉しくてたまりません!」

大歓声に包まれた。

「皆さん、本当にありがとうございました」

ユーマリアは今まで支えてくれた彼ら彼女らにも謝意を示す。

その言葉に執事やメイド達は全員が涙を流した。



「悪いけど、ユーマリアの恩人であるアリシアさんやグレイを呼んできてくれるかな?」

皆が落ち着き始めた頃合いを見計らってエルリックがお願いをすると、

「「「畏まりました!」」」

執事やメイド達はそれぞれが仕事に戻って行った。

(そ、そうでした。命の恩人お二人がこのお屋敷にいらっしゃるのでした)

エルリックの呼んだ名前を聞いたユーマリアは自身に舞い降りた幸運によりすっかりと考える余裕がなくなっていたことに気づき緊張し始めた。
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