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第131話

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「・・・」

ユーマリアの部屋に一人戻ってきたエルリックは穏やかな表情で眠るユーマリアを静かに見つめる。

(良かった・・・本当に・・・)

エルリックは心の底から安堵し、静かに涙を流す。

本当はアリシアやグレイと一緒に食事に付き合うべきだったのだろうがどうしてもユーマリアの傍に一刻も早く戻りたかったエルリックは3大貴族のバルム家のご令嬢であるアリシアを置いて部屋を出ていくという貴族にあるまじき行動をとってしまった。

その事に気づいたエルリックは今からでも部屋に戻るかという考えが頭を過ぎったが、

(・・・きっと大丈夫。アリシアさんは怒ったりしない)

そう思い直し、ユーマリアの傍に居たいと言う自分の意思を優先させる。

寝ているユーマリアを見て安心しきっているエルリックは更に思考を巡らせる。

(まさか、絶望的な状況にあったグレイが無事に生還してすぐに駆けつけてくれたばかりかユーマリアを治せる力を持ったアリシアさんを連れてきてくれるなんて・・・グレイにも頭があがらないなぁ)

ここに来てくれたということはあの手紙を読んで来てくれたということだ。

あのグレイの様子だと、今日手紙を読んですぐに駆けつけてくれたのだろう。

そうでない限り、夜中に到着するということはあり得ない。

馬車で夜道を走らせるということはそういう事だ。

(あの手紙だけで来てくれるなんて・・・本当にありがとうグレイ)

グレイにユーマリアと会うことを強要したくなかったエルリックはグレイとユーマリアの4年前の接点を隠し、更には一言も駆けつけてくれとは手紙に書かないことに敢えてしたのだ。

本当はそうした言葉を何度か綴ってしまった。

しかし、エルリックはその手紙を全て破り捨てた。

あくまでグレイの意思を尊重するためであった。

あの時は近日中に確実にユーマリアは死ぬと思っていたエルリックは、グレイの意思でなく駆けつけた場合にグレイの心に暗い影を落としてしまうことを恐れたからだ。

4年前だけでなく、グレイはまたもやユーマリアの命を救ってくれた。少なくともエルリックはそう思っている。

実際に今回ユーマリアを救ったのはアリシアであるし、アリシアに対しての感謝も深いのは間違いないが、グレイに対して同じくらいの感謝の念をエルリックは覚えていた。

(魔法学園でグレイを見つけられて良かった)

エルリックはグレイとの出会いに感謝しか無かった。

ファンと言って友人になった後、グレイと数年間過ごしたエルリックは出会った当初は荒んでいたイメージのグレイが段々と柔らかくなって行くのを間近で見てきた。

グレイの良いところなら何個でも言える。

(もう【ファン】じゃないな【心酔】の域かもしれない)

エルリックはそう結論付ける。

(まぁ、それについては置いておいて・・・)

「本当に良かったなぁ。ユーマリア」

感極まったエルリックは心の中の声だけでは我慢ができず、ユーマリアに声を掛ける。

寝ているはずのユーマリアはエルリックの言葉に同意するように口元を緩めた。
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