上 下
131 / 369

第130話

しおりを挟む
「・・・グレイさん」

食事も終盤にさしかかった頃、アリシアがグレイを呼ぶ。

「?何、アリシアさん?」

グレイはフォークに刺していた肉を皿に戻し、アリシアに尋ねる。

「ユーマリアさん・・・可愛かったですわね」

「・・・」

唐突なこの質問に対してグレイは何と答えたら良いのか分からず、沈黙する。

口の中に何かあったら、吹き出していたかも知れない。

(アリシアさん・・・どうしたんだろ?)

グレイは珍しく頭をフル稼働させる。

(もし、同意したらどうなるんだ?そして否定したらどうなる?)

グレイはアリシアの反応を予想するが答えが出ない。

グレイがアリシアを見ると、アリシアはじっとグレイの目を見ていた。

(ええい。正直に答えよう)

「・・・そうだね。エルリックそっくりだ」

心臓の鼓動を早くさせながらそう答える。

だが、アリシアが続けて言った言葉はグレイの予想を上回った。

「・・・そのような方から『どのようなことでもさせて頂きます』と言われておりましたが宜しかったのですか?」

グレイはアリシアの表情から何を考えているのかを必死で読み取ろうとするが、

(だめだ・・・全く読めない)

グレイにはアリシアが何を考えているのか全く分からない。

となれば、先程と同様に正直に答えるしかないと結論づける。

「アリシアさんが何を考えてのセリフかは分からないけど別に後悔とかはないよ。俺が何かをするのは見返りを求めているからじゃない。そうしたいと思っているから行動するだけだから」

「・・・」

アリシアはグレイの言葉に沈黙する。

「ふふふ、そうですか。グレイさんらしいですわね」

ここでようやくアリシアは表情が読めなかった状態を解いて、朗らかに笑う。

(ほっ、良かった)

その表情を見たグレイはやっと安心する。

アリシアはアリシアで、

(私《わたくし》としたことがするつもりではない意地悪をグレイさんにしてしまいましたわ。グレイさんの気持ちが他の方に向いていないようで安心しました。はっ・・・もしかしてこれが嫉妬と言う感情ですの!?)

アリシアは普段の自分では考えられない行動に自分自身で驚いていた。

グレイは他の女性に対して目移りしたりしない。

まだ、知り合って少ししかしていないにも関わらず、すぐに理解出来た。

だが、外から見えることなんてどこまで正しいか分からない。

ユーマリアのような美少女からあのようなことを言われた時のグレイの反応はアリシアをほっとさせるには充分であったが、ついつい不安な気持ちが抑えられずに聞いてしまったのだ。

アリシアは今までの自分には無かった感情に戸惑った。

そして、更に確認したくなってあの事を尋ねる。

「あの・・・グレイさん?」

「ん、どうしたの?」

グレイはアリシアの様子がいつも通りに戻ったのに安心しきっていたため、お茶を口につけながら気軽に聞き返す。

「何だかんだで時間が過ぎてしまったので聞けなかったのですが、先日私《わたくし》がナガリア達に殺されそうになった時に駆けつけてくださったグレイさんが『よくも俺のアリシアを殺そうとしてくれたな』って言ってくださったように記憶しているのですが私《わたくし》の聞き間違えではありませんわよね?」

ぶぅーーー

グレイは完全に動揺し、飲みかけていたお茶を盛大に吹き出したのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。

モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。 日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。 今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。 そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。 特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。

学園長からのお話です

ラララキヲ
ファンタジー
 学園長の声が学園に響く。 『昨日、平民の女生徒の食べていたお菓子を高位貴族の令息5人が取り囲んで奪うという事がありました』  昨日ピンク髪の女生徒からクッキーを貰った自覚のある王太子とその側近4人は項垂れながらその声を聴いていた。  学園長の話はまだまだ続く…… ◇テンプレ乙女ゲームになりそうな登場人物(しかし出てこない) ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!

町島航太
ファンタジー
 ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。  ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。

異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?

夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。 気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。 落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。 彼らはこの世界の神。 キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。 ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。 「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

孤児による孤児のための孤児院経営!!! 異世界に転生したけど能力がわかりませんでした

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はフィル 異世界に転生できたんだけど何も能力がないと思っていて7歳まで路上で暮らしてた なぜか両親の記憶がなくて何とか生きてきたけど、とうとう能力についてわかることになった 孤児として暮らしていたため孤児の苦しみがわかったので孤児院を作ることから始めます さあ、チートの時間だ

『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio
ファンタジー
 特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。  神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。 そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。 日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。    神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?  他サイトでも投稿しております。

処理中です...