上 下
130 / 339

第129話

しおりを挟む
「アリシアさん、本当にありがとうございました」

エルリックがアリシアに頭を下げる。

「とんでもないですわ。エルリックさんもお気になさらないでください」

アリシアがエルリックに微笑んで答える。

(・・・グレイさんのお気持ちが分かった気がしますわ)

アリシアは心の中で思う。

(御礼を言われるのは気持ちが良いものですか、こう何度も言われてしまいますと恐縮してしまいますわ。私《わたくし》の場合は自分が何かをしたわけでは無いのですし尚更ですわ)

アリシアがどうしたものかと思っていると、

ぐぅ~

「・・・ごめん。エル。夜遅くに申し訳ないのだけど何か食べさせてくれるかな?」

グレイのお腹が自己主張をした。

「・・・そうだよね。ごめん。アリシアさん、グレイ。すぐに食事の用意をさせるから待ってて」

エルリックはアリシアとグレイが魔法学園から馬車で半日はかかるここまで来たことを思い出し、動き出す。

「アリシアさん。まだ、御礼は言い足りませんがひとまず失礼致します」

「構いませんわ。私《わたくし》もお腹が空いておりましたので助かります」

アリシアの返事を聞いたエルリックは一度頭を下げると、部屋を出ていった。

「・・・エルリック嬉しそうだったな。少しでも力になれて良かったよ」

グレイが椅子に座りながら呟く。

アリシアも椅子に座ると、

「はい。本当に」

グレイの意見に同意する。

「それにしてもグレイさん、フォローしてくださってありがとうございました」

アリシアがグレイに礼を言う。

「いやぁ、アリシアさんに悪いと思ってさ」

グレイは頭を掻きながら答える。

(アリシアさんほどの責任感の強い人に今回のような頼みごとは辛いだろうから少しでも緩和出来るなら腹の音を聞かせるくらいどうということもないさ)

「ふふふ、相変わらずお優しいですわね」

アリシアがにこにこと微笑む。

グレイはアリシアの笑顔を直視が出来なくなり、

「それにしてもエルリックもユーマリアさんもイズのことには全く気づいた素振りがなかったね」

あからさまに話を反らす。

「そうですわね。お二人のお気持ちを考えると納得ではありますが」

アリシアが言うとイズも続けて、

『・・・別にそれは構わないのだが、食事にありつけるようには計らってくれよグレイ』

最近はグレイ達と会話すること以外にも食べることや本を読むことも楽しみになって来ているイズがさり気なく主張する。

「ああ。もちろんだよ」

グレイもアリシアもにっこりと笑った。



「わぁ、凄いな。豪華な食事だ」

「本当ですわね」

あれから暫くしたグレイとアリシアは沢山の食事が用意された客室に通された。

客室に呼んだのはもう夜も遅いためエルリックの配慮であろう。

4人掛けのテーブルの料理を見たグレイとアリシアは嬉しそうにする。

「さぁ、遠慮なく食べてね」

憑き物が取れたように晴れやかな表情をしたエルリックが席に着いた2人に向かって食事を勧める。

その後、エルリックは席を立ち、

「申し訳ないけど、僕はユーマリアの側にいるから遠慮なく食べてていいからね。この客室を出て右の客室も用意しておいたので眠り時は使っていいので遠慮なく」

「ありがとう」

「ありがとうございますわ」

頭を下げて客室を出ていくエルリックにグレイとアリシアが礼を言う。

『ふっふっふ、さて頂くとしよう』

待ってましたとばかりにグレイの左肩から飛び降りたイズが食事を取り始める。

「はやっ!」

「あら?ふふふ」

そんなイズに釣られるようにしてグレイやアリシアも食事を美味しく頂いたのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば
ファンタジー
剣があって、魔法があって、けれども機械はない世界。妖魔族、俗に言う魔族と人間族の、原因は最早誰にもわからない、終わらない小競り合いに、いつからあらわれたのかは皆わからないが、一旦の終止符をねじ込んだ聖女様と、それを守る5人の英雄様。 それが約50年前。 聖女様はそれから2回代替わりをし、数年前に3回目の代替わりをしたばかりで、英雄様は数え切れないぐらい替わってる。 英雄の座は常に5つで、基本的にどこから英雄を選ぶかは決まってる。 俺は、なんとしても、聖女様のすぐ隣に居たい。 でも…英雄は5人もいらないな。

伝説となった狩人達

さいぞう
ファンタジー
竜人族は、寿命が永い。 わしらの知る限りの、狩人達の話をしてやろう。 その生き急いだ、悲しき物語を。

大好きな母と縁を切りました。

むう子
ファンタジー
7歳までは家族円満愛情たっぷりの幸せな家庭で育ったナーシャ。 領地争いで父が戦死。 それを聞いたお母様は寝込み支えてくれたカルノス・シャンドラに親子共々心を開き再婚。 けれど妹が生まれて義父からの虐待を受けることに。 毎日母を想い部屋に閉じこもるナーシャに2年後の政略結婚が決定した。 けれどこの婚約はとても酷いものだった。 そんな時、ナーシャの生まれる前に亡くなった父方のおばあさまと契約していた精霊と出会う。 そこで今までずっと近くに居てくれたメイドの裏切りを知り……

とんでもないモノを招いてしまった~聖女は召喚した世界で遊ぶ~

こもろう
ファンタジー
ストルト王国が国内に発生する瘴気を浄化させるために異世界から聖女を召喚した。 召喚されたのは二人の少女。一人は朗らかな美少女。もう一人は陰気な不細工少女。 美少女にのみ浄化の力があったため、不細工な方の少女は王宮から追い出してしまう。 そして美少女を懐柔しようとするが……

不幸な少女の”日常”探し

榊原ひなた
ファンタジー
 夜の暗闇の中、弱々しく歩く少女の姿があった。  03:31という時間なので車や人が通らず、街灯もない道を歩く少女の姿を見る者はいない。  もしその少女の姿を見たら思わず目を背けてしまうだろう。裸足で…異様なほど痩せていて…痛々しい痣や傷を全身に作り、服はだらしなく伸びきっており…肩口が破け…髪はボサボサで…。  だが…その少女は虚ろな目をしながら微かに笑っていた。  ………  ……  …   これは…不幸な少女の”日常”を探す物語。 _________________________ *一話毎文字数少ないです。 *多分R18じゃないはずです、でも一応そういった事も書いてあります。 *初めて書く小説なので文章力や表現力が無く、所々間違っているかも知れません。 *伝わらない表現があるかも知れません。 *それでも読んで頂けたら嬉しいです。 *本編完結済みです。

最強への道 〜努力は俺を裏切らない

ペンギン
ファンタジー
ある日、突然世界に魔物が溢れたら 命が簡単に失われる世界になってしまったら そんな世界で目が覚めたら一人きりになっていたら 〈あなたはどうしますか?〉 男は選んだ"最強になり生き残る道"を 絶望的な世界において一冊の本に出会った男が 努力、努力、努力によって世界に立ち向かう ※誤字脱字が多く見られますのでご注意を 処女作です。軽い気持ちでご覧になって頂ければ幸いです。

復讐、報復、意趣返し……とにかくあいつらぶっ殺す!!

ポリ 外丸
ファンタジー
強さが求められる一族に産まれた主人公は、その源となる魔力が無いがゆえに過酷な扱いを受けてきた。 12才になる直前、主人公は実の父によってある人間に身柄を受け渡される。 その者は、主人公の魔力無しという特殊なところに興味を持った、ある施設の人間だった。 連れて行かれた先は、人を人として扱うことのないマッドサイエンティストが集まる研究施設で、あらゆる生物を使った実験を行っていた。 主人公も度重なる人体実験によって、人としての原型がなくなるまで使い潰された。 実験によって、とうとう肉体に限界が来た主人公は、使い物にならなくなったと理由でゴミを捨てるように処理場へと放られる。 醜い姿で動くこともままならない主人公は、このような姿にされたことに憤怒し、何としても生き残ることを誓う。 全ては研究所や、一族への復讐を行うために……。 ※カクヨム、ノベルバ、小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...