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第123話

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ガチャ

バスター家の屋敷内を大分歩いた後、エルリックはノックもしないである部屋の扉を開ける。

扉を開けながらさり気なく涙だらけの目を擦るエルリック。

アリシアもグレイもその事には気付いたが触れないようにする。

「どうぞ」

「ありがとうございますわ」

「ありがとう」

エルリックに続いて中に入るアリシアとグレイ。

部屋の中は薄っすらと魔法の光で照らされていた。

迷わずベッドに近づくエルリック。

後に続くグレイとアリシア。

ベッドにはエルリックそっくりの金髪の少女が穏やかな呼吸を繰り返していた。

「妹のユーマリア・バスターだよ」

執事やメイドが居ないからかエルリックが魔法学園で接するときの口調で妹を紹介する。

「可愛らしい妹さんですわね」

アリシアはまるで人形のような整った顔立ちのユーマリアを見て呟く。

「・・・」

一方、グレイはただ黙ってユーマリアを見ていた。

そして、グレイはエルリックの方を見ると、

「やっとエルが俺のファンって言ってた理由が分かったよ」

納得したように話しかける。

「・・・黙っててごめんグレイ」

エルリックが申し訳無さそうに謝る。

エルリックはユーマリアの手前、グレイにエルリックが近付いたきっかけを話す訳にはいかなかったのだが、グレイの立場に立ってみれば理由も分からずファンと言われて近付いて来たエルリックのきっかけを知って良い感情を持たないだろうと考えた。

だが、グレイは首を振り、

「謝る必要は無いよ。エルには感謝しているんだ。こんな俺と友達になってくれたんだからさ」

怒るでもなく罵倒するでもなく感謝の言葉をエルリックに告げた。

「グレイ・・・ありがとう」

「あ、でも、後で諸々経緯を教えてもらうから覚悟しといてくれよ」

エルリックに対してグレイはそう続ける。

照れ隠しなのは明らかであった。

「ふふふ、グレイさんらしいですわね。では、早速始めましょうか」

話を聞いていたアリシアが笑みを浮かべた後、そう宣言する。

(やはり、グレイさんが4年ほど前にお会いした方はエルリックさんの妹さんでしたわね。本当にグレイさんらしいですわ)

「?始めるって何を?」

エルリックがアリシアの言葉にキョトンとする。

「もちろん。ユーマリアさんの治療ですわ」

「!?そんなの不可能だ!」

アリシアの言葉で思わず大きな声を出すエルリック。

「う・・・うーん」

その声量に反応し、身じろぎをするユーマリア。

「エル」

グレイが「静かに」というジェスチャーをする。

「・・・ユーマリアの病気は【魔力過大病】なんだ。王都の【聖女】様だって治せない不治の病なんだよ。アリシアさんの気持ちは嬉しいけど・・・」

エルリックが小声で嘆く。

「【魔力過大病】ですか・・・それは確かに不治の病ですわね・・・」

アリシアがそのように呟く。

「それで、この後はどうされるのですか?」

「・・・今、両親が一度だけでも治すために試して貰えないか【聖女】様にお願いしに行っているんだ。もうそれにかけるしかない・・・」

エルリックは悔しそうに涙を流した。
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