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第113話

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「うん・・・」

グレイは少しだけ言いづらそうにした後、その場に立ち止まる。

つられてアリシアも立ち止まりグレイを見る。

グレイはアリシアの目をしっかり見ながら、

「実はアリシアさんにお願いがあるんだ」

というと、

「畏まりましたわ」

とすぐに快諾する。

グレイはアリシアのこの反応に慌てて、

「アリシアさん、内容を聞かずに了承しないでっ!」

と少し大きな声になる。

アリシアはコホンとわざとらしく咳をしてから、

「・・・そうですわね。やり直しますわ。お願いというのはどのようなことですか?」

と言い直す。

「うん。アリシアさんには申し訳ないのだけど、エルの妹さんを治す時にアリシアさんが治す形にして欲しいんだ。モリアスの町でやったような感じにはなるのだけど、嫌だったら言ってね」

グレイが自分の考えを話す。

「そのようなこと、もちろん構いませんわ」

アリシアは最初と変わらず、同じように快諾する。

「・・・本当に良いの?極力話が漏れないようにお願いするつもりだけど、アリシアさんが変に目立ってしまうよ」

グレイは懸念点を伝える。

「もちろんですわ。ひとまず、そろそろ馬車が来ている頃ですので歩きながらでもよろしいですか?」

アリシアが時計を見ながら、グレイに言う。

「分かった」

グレイはアリシアと一緒に魔法学園の門まで再び歩き出す。

数歩歩いた頃からアリシアは話し始める。

「まず、グレイさんさえ良ければ私《わたくし》から提案するつもりでしたわ」

「えっ!?」

アリシアの意外な言葉に驚くグレイ。

アリシアは細く綺麗な右手の人差し指を立てながら、

「自分で言うのもなんですが私《わたくし》は既に充分目立っております。これ以上目立っても関係ありませんわ」

そして、中指を立てながら、

「こう言っては失礼ですが、グレイさんが治すと言ってもエルリックさんの妹さんと二人きりにして貰うのは到底無理でしょう。その点、私《わたくし》であれば多少の融通は聞くはずですわ」

更に、薬指を立てながら、

「グレイさんが万が一目立ってしまい、秘密が露見する事で大事になってしまうよりも何万倍も良いですわ」

にっこりと微笑んだ。

グレイはアリシアの聡明さに改めて驚くと、

「ははっ、アリシアさんには敵わないや、よろしくお願いします」

笑いながら頭を下げた。

「はい。喜んで!」

アリシアは笑顔でそう言った後、顔を赤くしながら、

「もし・・・もし、私《わたくし》がまた窮地に陥ったら助けてくださいね?」

可愛らしくお願いしてくる。

グレイは突然の不意打ちにどきりとしながら、

「当たり前だよ」

と動揺を悟られないようにしながら了承した。

「うふふ。約束ですわよ」

アリシアは今日一番の笑顔で嬉しそうに言う。

「うん。約束だ」

グレイは右拳を上げる。

「?」

アリシアは不思議そうな顔をしてグレイを見るので、グレイは恥ずかしそうに、

「俺の故郷では約束とか、上手くいった時とか、両者で分かち合いたい時にこうするんだ。アリシアさん左拳を作って上げてくれる?」

「はい。こうですか?」

アリシアはグレイに言われた通りに左拳を上げる。

こつん

グレイは自分の右拳の小指側をアリシアの左拳の小指側に軽くぶつける。

「さあ、行こう!」

グレイはそう言うと少し早歩きをする。

アリシアは左拳をじっと見つめてから嬉しそうに微笑むと、

「はい!急ぎましょう!」

とグレイの後を追いかけたのだった。
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