112 / 399
第111話
しおりを挟む
「・・・」
学園長はアリシアの言葉を聞いて少しの間沈黙する。
自分の予想を上回る言葉だったためすぐに言葉が出てこなかった。
「・・・バルム様のお話を聞いて正直なところ驚きました。私の知る限りバルム家は他の貴族の中でも『恩』に対してとても真摯に向き合うという話は聞いておりました。ですが、バルム様・・・いえ、アリシア様はそのようなことを超えてズー君の為になりたいと言うことですね」
学園長はアリシアの想いを理解した。
(常に冷静沈着でいることを良しとする貴族の中でも最高峰の一角であるバルム家の御令嬢がここまで感情をあらわにするとは・・・)
学園長は思わず立ち上がるという行動をしたアリシアを見たことでも驚いていた。
(思い返して見ればズー君が急に居なくなったあの時もでしたね・・・)
学園長はつい一月前のことも併せて思い出し納得する。
「はい。仰る通りです。・・・あ、失礼しました」
アリシアは学園長の言葉に同意し、ここで初めての話の途中で立ち上がっていたことに気づきソファに座り直す。
「事情はよく分かりました。アリシア様とズー君の・・・」
学園長が話の途中で止まる。
ちょうどグレイの方にも目を向けたからだ。
「・・・学園長先生?」
話の途中で止まった学園長を訝しみ、学園長の視線が止まった方向・・・すなわちグレイの方へ、アリシアも視線を向ける。
「っ!?」
アリシアは驚きのあまり言葉に詰まる。
グレイは静かに泣いていたのだ。
「?どうかされましたか?」
グレイはどうして学園長とアリシアが自分を見て固まっているのかが良くわからず尋ねる。
「グレイさん・・・涙が・・・」
アリシアが理由を話すと、グレイさんは手を自分の目元に持っていき、
「・・・あれ?何で泣いているんだろ?すみません」
アリシアに言われて初めて自分が泣いていることに気づく。
グレイのその姿を見たアリシアは思わずグレイを抱きしめていた。
ぎゅ
「あ・・・アリシア様?」
涙を流しながら戸惑うグレイ。
「グレイさん、今まで本当にお疲れ様でした」
耳元でアリシアの言葉を聞いたグレイはようやく自分が何故泣いているかに気づく。
(そうか・・・俺は今までの人生でここまで人に想われたことは無かったんだな・・・)
グレイは早くに両親を無くし、更に人に忌避される能力が発現された事で故郷ではずっと蔑ろにされてきた。
何とか魔法学園に入ったものの、諸々の費用を工面するため必死に働き、人と人との繋がりなど最近親友となったエルリックだけであった。
そんな人生を歩んできたからこそ、アリシアが学園長に語ってくれた自分に対する想いはとてつもなく嬉しかったのだろう。
頭で理解するよりも早く、体が反応していたのだ。
(温かい・・・)
グレイはアリシアの気持ちがこもった抱擁を受け、自分の中にあるしこりのようなものがとれていくような気がした。
それ以外の感情は不思議と湧いて来なかった。
学園長はアリシアの言葉を聞いて少しの間沈黙する。
自分の予想を上回る言葉だったためすぐに言葉が出てこなかった。
「・・・バルム様のお話を聞いて正直なところ驚きました。私の知る限りバルム家は他の貴族の中でも『恩』に対してとても真摯に向き合うという話は聞いておりました。ですが、バルム様・・・いえ、アリシア様はそのようなことを超えてズー君の為になりたいと言うことですね」
学園長はアリシアの想いを理解した。
(常に冷静沈着でいることを良しとする貴族の中でも最高峰の一角であるバルム家の御令嬢がここまで感情をあらわにするとは・・・)
学園長は思わず立ち上がるという行動をしたアリシアを見たことでも驚いていた。
(思い返して見ればズー君が急に居なくなったあの時もでしたね・・・)
学園長はつい一月前のことも併せて思い出し納得する。
「はい。仰る通りです。・・・あ、失礼しました」
アリシアは学園長の言葉に同意し、ここで初めての話の途中で立ち上がっていたことに気づきソファに座り直す。
「事情はよく分かりました。アリシア様とズー君の・・・」
学園長が話の途中で止まる。
ちょうどグレイの方にも目を向けたからだ。
「・・・学園長先生?」
話の途中で止まった学園長を訝しみ、学園長の視線が止まった方向・・・すなわちグレイの方へ、アリシアも視線を向ける。
「っ!?」
アリシアは驚きのあまり言葉に詰まる。
グレイは静かに泣いていたのだ。
「?どうかされましたか?」
グレイはどうして学園長とアリシアが自分を見て固まっているのかが良くわからず尋ねる。
「グレイさん・・・涙が・・・」
アリシアが理由を話すと、グレイさんは手を自分の目元に持っていき、
「・・・あれ?何で泣いているんだろ?すみません」
アリシアに言われて初めて自分が泣いていることに気づく。
グレイのその姿を見たアリシアは思わずグレイを抱きしめていた。
ぎゅ
「あ・・・アリシア様?」
涙を流しながら戸惑うグレイ。
「グレイさん、今まで本当にお疲れ様でした」
耳元でアリシアの言葉を聞いたグレイはようやく自分が何故泣いているかに気づく。
(そうか・・・俺は今までの人生でここまで人に想われたことは無かったんだな・・・)
グレイは早くに両親を無くし、更に人に忌避される能力が発現された事で故郷ではずっと蔑ろにされてきた。
何とか魔法学園に入ったものの、諸々の費用を工面するため必死に働き、人と人との繋がりなど最近親友となったエルリックだけであった。
そんな人生を歩んできたからこそ、アリシアが学園長に語ってくれた自分に対する想いはとてつもなく嬉しかったのだろう。
頭で理解するよりも早く、体が反応していたのだ。
(温かい・・・)
グレイはアリシアの気持ちがこもった抱擁を受け、自分の中にあるしこりのようなものがとれていくような気がした。
それ以外の感情は不思議と湧いて来なかった。
185
お気に入りに追加
1,445
あなたにおすすめの小説
善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です
しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。
スキルを極めろ!
アルテミス
ファンタジー
第12回ファンタジー大賞 奨励賞受賞作
何処にでもいる大学生が異世界に召喚されて、スキルを極める!
神様からはスキルレベルの限界を調査して欲しいと言われ、思わず乗ってしまった。
不老で時間制限のないlv上げ。果たしてどこまでやれるのか。
異世界でジンとして生きていく。
ドラゴンなのに飛べません!〜しかし他のドラゴンの500倍の強さ♪規格外ですが、愛されてます♪〜
藤*鳳
ファンタジー
人間としての寿命を終えて、生まれ変わった先が...。
なんと異世界で、しかもドラゴンの子供だった。
しかしドラゴンの中でも小柄で、翼も小さいため空を飛ぶことができない。
しかも断片的にだが、前世の記憶もあったのだ。
人としての人生を終えて、次はドラゴンの子供として生まれた主人公。
色んなハンデを持ちつつも、今度はどんな人生を送る事ができるのでしょうか?
スマートシステムで異世界革命
小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 ///
★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★
新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。
それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。
異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。
スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします!
序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです
第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練
第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い
第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚
第4章(全17話)ダンジョン探索
第5章(執筆中)公的ギルド?
※第3章以降は少し内容が過激になってきます。
上記はあくまで予定です。
カクヨムでも投稿しています。
リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?
あくの
ファンタジー
15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。
加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。
また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。
長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。
リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる