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第110話

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「早速ですが、バルム様。急ぎの用事というのはどのようなことでしょうか?」

学園長は早速本題に入る。

「ズー君の無事な姿を見せて頂くことと言われても私としては構いませんが別のお話があるのですよね?」

場の雰囲気を柔らかくするためか、学園長が続ける。

「はい。実は、私《わたくし》とグレイさんの二人を数日間魔法学園をお休みさせて頂きたいのです」

アリシアは単刀直入に学園長に告げた。

「ズー君は一月余り学園に来れずさらに休むと言うことですよね?そして、バルム様も先週半ばからのお休みを延長するとそう言う事ですね?」

学園長が確認するように言ってくる。

その表情からは何を考えているのか読めない。

「はい。仰る通りです」

アリシアが頷く。

「理由を伺ってもよろしいですか?」

(来たっ!・・・アリシアさんはなんと答えるのだろうか)

グレイは想定した質問が学園長からされる事でわずかに体が強張る。

自分では到底うまく言えない事が分かっているからだ。

グレイが身構えている一方、アリシアはいつも通りの自然体のままで、

「実はグレイさんの親友であるエルリック・バスターさんの妹さんが危篤とのことでエルリックさんが実家に戻られております。何の役にも立たないと分かっていながらエルリックの側にいたいとグレイさんが仰りましたので、今の状況でそのまま行かれると魔法学園側にもご迷惑がかかると思い、お休みの中で申し訳ないと思いましたが学園長先生のところに参りました」

スラスラと答える。

(アリシアさん・・・凄い)

グレイはアリシアの話しぶりに感心する。

「ふむ。そう言うことでしたか。では、バルム様まで行かれるのは何故ですか?」

更に、学園長が真っ当な質問をする。

(・・・)

グレイはもし自分だったらどう答えるかを考えるも思いつかず、アリシアの返答を待つ。

「私《わたくし》も行くのはまだ日が浅いもののエルリックさんと友人であるということもありますが、それよりもグレイさんのお役に少しでも立てればと思い、同行を決めました」

ここでもアリシアは動揺も全くせずにはっきりと答える。

「・・・失礼ですがバルム様は何故そこまでされるのですか?」

学園長が更に尋ねる。

学園長は3大貴族であるバルム家の人間であるアリシアが付き人であるとはいえ、赤の他人でかつ平民のグレイのために何故そこまで出来るのか不思議でならなかった。

命を救われた恩はあるのだろう。

だが、貴族であれば平民に対してであれば金品を与えて感謝を伝えるくらいで事足りるのだ。

何故わざわざアリシアが自分の時間を削ってまでグレイのために尽くすのだろうか。

「私《わたくし》はグレイさんに2回命を救っていただきました。しかもその中の1つ目は私《わたくし》の運命すら変えるものでした」

(森の中での一件のことか・・・)

グレイはアリシアが寿命が尽きる予定の時の話を言っているのだとすぐに気がつく。

「そして2つ目は私《わたくし》だけでなくバル家自体を救ってくださるものでした」

(・・・先週のことだよね。ちょっと大げさな気も・・・)

「受けた恩は私《わたくし》には到底返せるものではありません。ですが、グレイさんは『恩なんて気にしないで良い』と仰いました」

「・・・ズー君らしいですね」

学園長がアリシアの言葉に納得する。

「そこで気づきました。私《わたくし》は私《わたくし》自身が心の底からグレイさんの役に立ちたいということを」

最後になるといつの間にかアリシアはソファから立ち上がっていた。
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