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第100話

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「できれば、今後は『グレイ』とお呼びください。いつまでも『ズー様』というのはむず痒いので」

グレイがムスターに照れくさそうに言う。

「ほほっ」

ムスターは思わず、笑ってしまった。

(やはり、この少年は無欲ですね)

てっきりゾルム家の筆頭執事である自分にしかできないお願い事かハーフエルフである自分にしかできないお願い事をされると思っていたムスターは唖然とする。

(しかし・・・)

「・・・残念ながらゾルム家の恩人であるあなたを呼び捨てることなど私にはできません」

「・・・そうですか」

グレイは残念なのだろう、肩を落とす。

「・・・ですので、『グレイさん』と呼ばせていただきますね」

「!?はい!ありがとうございます!!」

グレイは余程嬉しいのだろう。ムスターに礼を言うと、

「では、また!」

嬉しそうに馬車に乗り込む。

「はい。グレイさん。またお会いしましょう」

こうしてグレイとアリシアを乗せた馬車は魔法学園に向けて進み始める。

(本当に面白い少年ですね。私のような者に名前を呼ばれたからといってあんなに喜ぶとは・・・)

「ですが、何故でしょう。悪い気分はしませんね」

ムスターはもう見えなくなった馬車に向かって嬉しそうに呟いたのであった。





「・・・どうしたのアリシアさん?」

馬車の中で目の前に座るアリシアの様子を見たグレイが尋ねる。

馬車に乗ってからというものアリシアがずっとニコニコとしているのだ。

「いえ。グレイさんはやはりグレイさんですわねと思いまして」

アリシアが答えになっていないような答えを返す。

「??」

グレイには何だか良く分からず疑問符を浮かべる。

(私《わたくし》の周りには『様』付けを嫌がる方などおりませんでしたわ)

アリシアはグレイの考え方の全てが新鮮であった。

「まぁいっか」

グレイは何だか良く分からないがアリシアがニコニコしているなら良いかと思うことにする。

『これから向かっているのはどこなのだ?』

話が一区切りしたことを見計らって、イズが尋ねてくる。

「ん。ああ。アリシアさんや俺が通っている魔法学園に向かっているんだ」

そういえばイズに行き先を話していなかったと思いながらグレイが答える。

『ほほぅ。魔法学園か。興味深いな』

イズが興奮したようにグレイの頭と左肩を行ったり来たりする。

「そう?イズにとってはつまらない気もするけど・・・」

グレイが不思議そうに呟く。

『・・・そうか。今の魔法は昔に比べると無駄が多いしな・・・』

イズがグレイの言葉に我に返り、少し意気消沈する。

「確かに魔法に関してはそうかもしれませんが、魔法学園にある図書館はかなりの広さですから、イズさんがお好きな本が沢山読めますわよ」

話を聞いていたアリシアが元気の無くなったイズに元気になりそうなことを言う。

『なにっ!それはいいな!!よし、グレイ。魔法学園に着いたら図書館に行くぞ!!』

アリシアの言葉に再び元気になったイズがはしゃぎ始める。

「ははは。後でね」

グレイはイズのにぎやかな様子を嬉しそうに見ながらそう応じたのであった。
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