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第99話
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「アリシアお嬢様、ズー様、お気をつけていってらっしゃいませ」
ムスターがアリシアとグレイを見送る。
今は、モリアスの町の騒動があってから一日が経過し、日曜日の昼前であった。
グレイとアリシアは、月曜日から始まる魔法学園の授業のために屋敷を出るところである。
土曜日の夕方、今日からすると昨日の夕方は屋敷に戻ってからはかなり慌ただしかった。
当然ではあるがアリシアから断片的な情報を聞いただけのゾルムが事情説明を求められ、更には『組織』云々の話というきな臭いことも相まって、結構な時間が割かれ、対話がなされた。
意外にもゾルムであっても『組織』というのは初耳とのことであった。
モリアスの町で起きた事件、そしてマドッグのグレイへの宣戦布告に関して、事態を重く受け止めたゾルムは状況把握に動き出した。
まずは、ナガリアや懐刀であった闇朧の執事であれば何かしらの情報が掴める可能性があるため、その辺りから『組織』について調査をするとのことだ。
ちょうど別件で王都に用事があるということもあり、ゾルムは今朝早くに王都に向けて出立していた。
なお、マドッグの毒短剣もゾルムに託しており、調査のための手掛かりとして有効活用してもらう。
そのため、ゾルムは今この場にはおらず、代わりに執事のムスターがグレイとアリシアを見送っている。
リンダとキャミーについては、ゾルムも快く受け入れてくれており、今はメイドのサリアの元で基本的な仕事内容のレクチャーを受けている。
リンダからは見送りに来たいと言われたが、また週末には来るだろうし仕事を優先して欲しいと伝えてあった。
「では、参りましょうか」
アリシアが隣にいるグレイに声をかける。
「はい。畏まりました」
グレイが返事をすると、馬車の扉をグレイが開け、アリシアを中に誘導する。
続いてグレイが馬車に入ろうとしたとき、ムスターがグレイに声をかける。
「ズー様、アリシアお嬢様のことを引き続きよろしくお願いいたします」
「畏まりました。尽力致します」
グレイは変に気負うことなく快諾する。
「ズー様は初めてお会いした時からとても成長されましたね」
グレイの立ち居振る舞いを見たムスターが目を眩しそうに細めグレイを見て言う。
(初めてお会いした時も興味深い少年でしたがわずか数か月でここまで頼りになる人物に成長するとは思ってもみませんでした)
「そうですか?ありがとうございます」
グレイは自身では自覚が無いのか、疑問符を浮かべながらも礼を言う。
「ええ。それはもう」
ムスターがはっきりと肯定する。
グレイは少し照れながら、ちょうどいい機会なので今まで気になっていたことを伝えることにする。
「あ、折角ですのでこれを機に一つだけお願いしても良いですか?」
「私にできることでしたら遠慮なくお申し付けください」
(珍しいですね。ズー様がお願いとは。はてさて何を言われるのか)
ムスターは目の前の無欲の塊のような少年が何をお願いするのかと楽しみ次の言葉を待つ。
ムスターがアリシアとグレイを見送る。
今は、モリアスの町の騒動があってから一日が経過し、日曜日の昼前であった。
グレイとアリシアは、月曜日から始まる魔法学園の授業のために屋敷を出るところである。
土曜日の夕方、今日からすると昨日の夕方は屋敷に戻ってからはかなり慌ただしかった。
当然ではあるがアリシアから断片的な情報を聞いただけのゾルムが事情説明を求められ、更には『組織』云々の話というきな臭いことも相まって、結構な時間が割かれ、対話がなされた。
意外にもゾルムであっても『組織』というのは初耳とのことであった。
モリアスの町で起きた事件、そしてマドッグのグレイへの宣戦布告に関して、事態を重く受け止めたゾルムは状況把握に動き出した。
まずは、ナガリアや懐刀であった闇朧の執事であれば何かしらの情報が掴める可能性があるため、その辺りから『組織』について調査をするとのことだ。
ちょうど別件で王都に用事があるということもあり、ゾルムは今朝早くに王都に向けて出立していた。
なお、マドッグの毒短剣もゾルムに託しており、調査のための手掛かりとして有効活用してもらう。
そのため、ゾルムは今この場にはおらず、代わりに執事のムスターがグレイとアリシアを見送っている。
リンダとキャミーについては、ゾルムも快く受け入れてくれており、今はメイドのサリアの元で基本的な仕事内容のレクチャーを受けている。
リンダからは見送りに来たいと言われたが、また週末には来るだろうし仕事を優先して欲しいと伝えてあった。
「では、参りましょうか」
アリシアが隣にいるグレイに声をかける。
「はい。畏まりました」
グレイが返事をすると、馬車の扉をグレイが開け、アリシアを中に誘導する。
続いてグレイが馬車に入ろうとしたとき、ムスターがグレイに声をかける。
「ズー様、アリシアお嬢様のことを引き続きよろしくお願いいたします」
「畏まりました。尽力致します」
グレイは変に気負うことなく快諾する。
「ズー様は初めてお会いした時からとても成長されましたね」
グレイの立ち居振る舞いを見たムスターが目を眩しそうに細めグレイを見て言う。
(初めてお会いした時も興味深い少年でしたがわずか数か月でここまで頼りになる人物に成長するとは思ってもみませんでした)
「そうですか?ありがとうございます」
グレイは自身では自覚が無いのか、疑問符を浮かべながらも礼を言う。
「ええ。それはもう」
ムスターがはっきりと肯定する。
グレイは少し照れながら、ちょうどいい機会なので今まで気になっていたことを伝えることにする。
「あ、折角ですのでこれを機に一つだけお願いしても良いですか?」
「私にできることでしたら遠慮なくお申し付けください」
(珍しいですね。ズー様がお願いとは。はてさて何を言われるのか)
ムスターは目の前の無欲の塊のような少年が何をお願いするのかと楽しみ次の言葉を待つ。
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