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第96話

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「御理解くださりありがとうございます」

アリシアはグレイが返事を聞いて満足そうに笑顔になり、手を元の位置に戻す。

そして直ぐに深刻な顔をすると、

「グレイさんが抹殺対象ということもですが、そのマドッグという者に命を狙われるようになるとは困ってしまいますわね。何とか対策を練らないといけません」

「・・・そうだね。抹殺対象というのは何でかは分からないけど。マドッグの方は、不味いね・・・」

グレイがうんざりしたように言った。

「そうですわね。グレイさんの手の内全てが分かった訳では無いでしょうが、間違いなく対策をしてくるでしょう」

アリシアもグレイの言葉に同意する。

グレイが最も強いのは初めて戦う時ということをアリシアもよく理解していた。

『あのような者、何度来ようが関係ない。グレイもこのまま相手の虚だけを突いていれば良いと思っている訳では無いだろう?』

そこでイズが会話に混ざる。

「・・・そうだな。俺も今のままでは駄目だと思っていたから丁度良い」

グレイはイズの言葉に同意する。

アリシアはグレイの様子を見る。

(決意に満ちた顔ですわね。聞いているだけでもマドッグの強さは先日の闇朧と同等くらいはあるかもしれません。本来であればグレイさんでは到底勝ち目は無いはずなのですが・・・)

アリシアは思い返す。

グレイという少年の異常と言っても良いくらいの成果を。

(グレイさんなら大丈夫。そんな気がします。でしたら、私《わたくし》が行うことはただ一つですわ)

「ふふふ。グレイさんがその気でしたら私《わたくし》もご協力を惜しみませんですわ」

(グレイさんを信じて、全力でバックアップすることですわ)

「アリシアさん、ありがとうございます」

グレイはアリシアの心遣いに礼を言った。

「とんでもありませんわ!」

アリシアは満面の笑みで応えた。





「あ、そうですわ。グレイさん、屋敷に戻ってからで良いのでマドッグが使っていた短剣をお貸しくださいませんか?」

「え?いいけど、滅茶苦茶危険だと思うよ。マドッグが気絶しているときに念のため所持品探したけど解毒薬とかも無かったし・・・」

「大丈夫ですわ。取り扱いに関しましては専門家に任せますから。特殊な毒ですと手掛かりになる可能性がありますからね、調査して貰おうかと思いますわ。もちろん、そう上手くいくとも思えませんので駄目もとではありますが」

「そういうことか。了解。屋敷に戻ったら是非ともお願い」

グレイはアリシアの提案に納得する。

「ところで、リンダさんやキャミーちゃんのことはゾルム様には今日直接話すつもり?」

グレイが気になっていたことを確認する。

リンダたちは、色々な背景から今日の夕方に迎えにくる馬車で一緒にバルム家の屋敷に行くことにしていた。

「直接もお話ししますが、実はこういうこともあるかと思いまして、先んじてお父様に連絡しておりました」

「そうなんだ。流石、アリシアさんだね」

グレイはアリシアの行動の早さに感心する。

(少なくとも俺がキャミーちゃんを連れて戻る前にはゾルムさんに連絡しているはずだ。ということはアリシアさんは俺の戻りを待っている段階では既にリンダさん達を屋敷に連れて帰ることも想定していたということだ。一体、どのくらい先のことまで考えているのだろうか・・・)

やはりアリシアは凄い人物だとグレイは改めて理解する。

「ありがとうございます。褒めても何も出ませんよ」

当のアリシアは普通だと思っているのでピンと来ては無かったが、グレイが本気で褒めてくれていることは分かるため笑顔で礼を言った。
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