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第92話
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「事情は理解しました。ではリンダさんは他に『組織』のことは知らないということですね」
グレイがリンダの話を聞いてそう答える。
「はい。その通りです。ですが、どうして『組織』のことをご存じなのですか?」
グレイの話しぶりに疑問を持ったリンダが尋ねる。
これにはアリシアも同意見なため、考え事を途中で止め、グレイに注目する。
「私も知っている訳ではありません。そちらの子どもを助けに行った時に戦った男から聞いただけです。その男は恐らく『組織』とやらの暗殺専門だったのでしょうね。すみませんが、取り逃がしてしまいましたが・・・」
グレイが申し訳なさそうに答える。
リンダは、静かに首を振って、
「いえ、この子を取り戻してくれただけで充分です。本当にありがとうございました」
「リンダさん、これから行く宛はあるのですか?」
アリシアがリンダに尋ねる。
「ありません。身寄りも最早ないですし・・・キャミーとどこで住める場所を探して静かに暮らそうと思っております」
リンダは優しい目でキャミーを見ながらアリシアの言葉に答える。
「・・・でしたら、私《わたくし》のお屋敷で働きませんか?」
アリシアがそう提案する。
リンダは驚いた顔をした後、
「それはとても嬉しいご提案ですが、ご迷惑をお掛けしてしまいますから・・・」
「迷惑だなんて気にしなくて良いですわ。『組織』がどのような連中かは知りませんが3大貴族であるバルム家に仕掛けてくるような命知らずではないでしょう。ですので、一番安全かと思いますわ」
「アリシア様、素晴らしい名案ですね。それに加えて、リンダさんが死んだことにしておけば盤石かと思いますよ」
グレイがアリシアのアイディアに付け加えるように提案する。
アリシアはグレイの意図を直ぐに理解し、
「グレイさんも名案ですわね。確かに、あれほどの傷を負って生き延びられるのはまず不可能です。『組織』とやらもリンダさんが生きているとは思いもよらないでしょう」
グレイの案に賛成する。
「・・・どうして、私たちなんかのためにそこまでしてくださるのですか?」
(少年の方は、命掛けでキャミーを助けてきてくれた。そして、アリシア様は私を助けてくれたばかりか、匿ってくれようとしてくださっている)
黙って聞いていたリンダは思わず二人に尋ねる。
「「?」」
グレイとアリシアはリンダの質問に揃って疑問府を浮かべると、
「「できる時にできる事をしているだけです(わ)」」
同じセリフを声を揃えて答えた。
リンダは二人の様子にきょとんとした後、
「ありがとうございます。では、私たちのことを何卒よろしくお願いいたします」
笑顔でお願いしたのであった。
(このような人たちがいるだなんて、まだこの世の中も捨てたものじゃないですわね)
リンダは研究所を出てからというもののこの町に来るまで必死で逃げてきた。
それはまさに地獄のような逃亡劇であった。
誰も頼れる人間はおらず、食事の時も寝る時も心の休まるときが無かった。
そして、ついに刺され死んでしまいそうになった時、キャミーだけでも助けてと薄れゆく意識の中で心の底から願った。
その願いが叶っただけでなく、自分まで救ってくれたのだ。
(この人たちに足を向けて眠れないわ。キャミーにもよく言っておかないと)
リンダはまだぐっすりと寝ているキャミーの顔を見ながらそう思ったのであった。
グレイがリンダの話を聞いてそう答える。
「はい。その通りです。ですが、どうして『組織』のことをご存じなのですか?」
グレイの話しぶりに疑問を持ったリンダが尋ねる。
これにはアリシアも同意見なため、考え事を途中で止め、グレイに注目する。
「私も知っている訳ではありません。そちらの子どもを助けに行った時に戦った男から聞いただけです。その男は恐らく『組織』とやらの暗殺専門だったのでしょうね。すみませんが、取り逃がしてしまいましたが・・・」
グレイが申し訳なさそうに答える。
リンダは、静かに首を振って、
「いえ、この子を取り戻してくれただけで充分です。本当にありがとうございました」
「リンダさん、これから行く宛はあるのですか?」
アリシアがリンダに尋ねる。
「ありません。身寄りも最早ないですし・・・キャミーとどこで住める場所を探して静かに暮らそうと思っております」
リンダは優しい目でキャミーを見ながらアリシアの言葉に答える。
「・・・でしたら、私《わたくし》のお屋敷で働きませんか?」
アリシアがそう提案する。
リンダは驚いた顔をした後、
「それはとても嬉しいご提案ですが、ご迷惑をお掛けしてしまいますから・・・」
「迷惑だなんて気にしなくて良いですわ。『組織』がどのような連中かは知りませんが3大貴族であるバルム家に仕掛けてくるような命知らずではないでしょう。ですので、一番安全かと思いますわ」
「アリシア様、素晴らしい名案ですね。それに加えて、リンダさんが死んだことにしておけば盤石かと思いますよ」
グレイがアリシアのアイディアに付け加えるように提案する。
アリシアはグレイの意図を直ぐに理解し、
「グレイさんも名案ですわね。確かに、あれほどの傷を負って生き延びられるのはまず不可能です。『組織』とやらもリンダさんが生きているとは思いもよらないでしょう」
グレイの案に賛成する。
「・・・どうして、私たちなんかのためにそこまでしてくださるのですか?」
(少年の方は、命掛けでキャミーを助けてきてくれた。そして、アリシア様は私を助けてくれたばかりか、匿ってくれようとしてくださっている)
黙って聞いていたリンダは思わず二人に尋ねる。
「「?」」
グレイとアリシアはリンダの質問に揃って疑問府を浮かべると、
「「できる時にできる事をしているだけです(わ)」」
同じセリフを声を揃えて答えた。
リンダは二人の様子にきょとんとした後、
「ありがとうございます。では、私たちのことを何卒よろしくお願いいたします」
笑顔でお願いしたのであった。
(このような人たちがいるだなんて、まだこの世の中も捨てたものじゃないですわね)
リンダは研究所を出てからというもののこの町に来るまで必死で逃げてきた。
それはまさに地獄のような逃亡劇であった。
誰も頼れる人間はおらず、食事の時も寝る時も心の休まるときが無かった。
そして、ついに刺され死んでしまいそうになった時、キャミーだけでも助けてと薄れゆく意識の中で心の底から願った。
その願いが叶っただけでなく、自分まで救ってくれたのだ。
(この人たちに足を向けて眠れないわ。キャミーにもよく言っておかないと)
リンダはまだぐっすりと寝ているキャミーの顔を見ながらそう思ったのであった。
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