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第83話

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ビリビリビリビリ

先ほどとは比べ物にならないくらいのプレッシャーがグレイを襲い、思わず身構える。

(・・・なんて迫力だ。だが、俺がやれることは単純だ)

グレイが心を乱さないようにしていく。

(どんな相手であっても俺が持ちうる全てを使い直接攻撃を叩き込むだけだ)

マドッグがいつ攻撃してくるか分からないため、できる限りの攻撃を想定するグレイ。

一方、マドッグの方はグレイの様子を見て驚いていた。

(このガキ・・・俺の殺気を受けても平気な顔をしてやがる)

実際にはそんなことは無いのだがマドッグから見たらグレイの様子は自然体そのものであった。

(あの話はガセじゃなかったようだな。だが、所詮はガキだ。さっさと殺してやる)

グレイの様子を伺っていたマドッグが一瞬で消える。

そして直ぐにグレイの後ろに出現し、右手にいつの間にか取り出したナイフでグレイの背中を狙う。

だが、グレイは一瞬で移動したマドッグに驚く素振りを見せないばかりか、すぐに体を反時計回りに回転させながら振り返る。

(このガキ!驚かないばかりか向かってくるだと!!)

グレイは下がることをせず、逆に驚いたマドッグの懐に深く入り込んでくる。

ザシュ

マドッグのナイフが浅く、グレイの左わき腹を薙ぐ。

グレイは痛みに顔を少し歪めはしたが気にせず左手を伸ばす。

が、グレイが掴もうとした手は再びマドッグの姿が掻き消えることで惜しくも空を切る。

「・・・」

少し離れたところに現れたマドッグが黙ってグレイを見る。

(この前戦ったあの執事と似たような動きだな)

グレイはつい数日前に相対した闇朧のことを思い出す。

(それにしても少しかすっただけなのにやけに痛むな)

グレイはかすっただけでやけにずきずきと痛むわき腹を気にしながらも相手の情報を探るために声を掛ける。

「・・・その攻撃の仕方。あんた暗殺者かなんかだろ?」

さっきのようにどうせ知りたい情報は漏らさないだろうと思っていたが、

「・・・まぁ、そうだな」

予想に反してマドッグが答えてくる。

「・・・何故、あの女性を刺して子どもを連れ去った?」

グレイはどういう心境の変化だと意外に思いながらも尋ねる。

「・・・あの女は組織の裏切り者だから制裁を加えただけだ。そして、あの子どもは我ら組織のモノだから回収しただけだ」

(おいおい・・・『裏切り者』に『組織』だと?だんだんきな臭くなって来たな)

グレイはだんだんと事が大きくなるのを感じながらも、

(何故急にここまで話す気になったんだ?)

マドッグの様子に違和感を感じる。

(まぁ、いいか。情報を得たいことには変わらない。このまま色々と答えて貰おう)

「それで、何故俺のことを知っているんだ?」

グレイは先ほど答えて貰えなかった質問を再度投げかける。

「・・・・・・簡単なことだ。グレイ・ズー、お前も抹殺対象なんだよ」

少し答えるのに躊躇した後にマドッグが答えた内容はグレイの予想の斜め上を行くものだった。

「なっ!?」

想定外の答えにグレイが驚く、

そして、

「ごふっ」

グレイの口から突然血が吐き出された。



(な・・・なんだ・・・)

グレイが血を吐き出しながら、困惑する。

「やっと効いてきたようだな」

マドッグが淡々と呟く。

その様子からグレイは悟る。

「ど・・・毒か・・・」

グレイは立っていられず、膝をつく。

「そうだ。苦しいだろう。今楽にしてやる」

ナイフを持ったマドッグがゆっくりとグレイに向かって歩き出した。







(グレイさん・・・御無事でしょうか)

場所は変わってここはモリアスの町の診療所。

アリシアは大怪我を負った女性に付き添っていた。

アリシアはグレイと別行動をした後、駆けつけた魔法医師に女性を託し、同じくやってきた騎士に事情を話した。

そして、女性が運ばれた診療所にやってきていた。

アリシアは女性が寝ているベッドの隣に座り、渦中に向かって行ったグレイの安否を気遣う。

コンコンコン

そんな時、診療所の扉がノックされ、

ガチャ

魔法医師が中に入ってきた。

「先生」

アリシアはすぐに立上り、中に入ってきた魔法医師を出迎える。

「アリシア様、お座りになられてください」

魔法医師はわざわざ席を立ったアリシアに向かって恐縮しながらそう言った。

「いいえ、そういう訳には参りません。ここは診療所なのですから、私《わたくし》の身分など気にすることはございません」

アリシアはそう言いながら、ベッドから椅子をどかし、魔法医師が女性の様子を見やすいように移動する。

「ありがとうございます」

(本当にこの方は・・・。貴族の中でも最も偉い3大貴族の内のバルム家の方なのにここまで接しやすい人も珍しい)

魔法医師はアリシアの少しの対応だけで伝わってくる清々しいまでの接しやすさに改めて感心する。

そして、ベッドに横たわっている女性の様子を確認し始めた。

「・・・やはり、問題なさそうですね。後は、目が覚めるのを待つだけです」

「それは良かったですわ。ありがとうございます先生」

アリシアが魔法医師の言葉に安堵し、礼を言う。

魔法医師は首を振り、

「私は何もしておりません。アリシア様の的確な治療のお陰で何もすることがありませんでした。それほどまでの治療の腕でしたら、魔法医師としても引く手数多でしょうね。あ、これは失礼致しました」

素直なコメントをした後、相手が貴族であることを考え謝る。

貴族相手に魔法医師に向いているなんて侮辱と捉えられてもおかしく無いだろう。

「お気になさらなくて大丈夫ですわ。ですが、他の方には言わない方がよろしいですわね」

アリシアが苦笑しながら魔法医師に答える。

「はい。気をつけます」

魔法医師は若干顔を青くしながら言った。

(本当はグレイさんが治されたので私《わたくし》は何もしていないのですが・・・言うわけには参りませんからね)

アリシアは自分の功績でも無いのに褒められることに抵抗はあったが事情が事情なため、諦めて魔法医師の言葉を受け止めたのであった。
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