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第80話

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「そ、そうなんですね。光栄です」

グレイは今聞いた言葉が信じられないくらい動揺していたが口が勝手に回る。

(い、今アリシアさんは何て言った?聞き間違いじゃなければ俺がアリシアさんと町に行く男として初めてって言ってたよな)

グレイが必死に動揺を顔に出さないようにしながらアリシアの言葉を頭の中で何度か反芻してから、

「・・・お、俺も・・・女性と町に行くのはアリシアさんが初めてです」

アリシアだけに答えさせるのは失礼と思い、グレイも照れながら自分のことも話す。

(うう。恥ずかしい。アリシアさんは良くこんなセリフを笑顔で言えたな)

隠れられるなら隠れたい。

恥ずかしさの余りグレイはそう考えるが、ここは馬車の中、隠れる場所もない。

「っ!?・・・私《わたくし》も光栄ですわ」

グレイの言葉に一瞬驚いた表情をしたアリシアが嬉しそうに答える。

(グレイさんの反応を見れば分かっていたことでしたが、言葉にしていただけるとは。男性はそういうところを余り言いたがらないものでしょうに。本当にまっすぐな方ですわね。だから傍に居たいと思ったのですわ)

アリシアは顔を赤くしながら心なしか小さくなっている照れ顔のグレイを見ながら嬉しく思う。

確かに命を救って貰ったことに対する感謝はある。

だが、それだけであれば御礼をすれば済む話しなのだ。

ここまで接点を持つ必要はない。

だが、そうはしていないのはグレイという人間自体に惹かれたからに他ならない。

(そう。きっと迷宮の主であったイズさんも・・・)

アリシアはグレイの傍にいるという選択をしたイズのことを考え、姿を探す。

「あ・・・」

アリシアがイズを見つけた時には、イズがグレイにくちばしでつついていた。

「いた!いたた!やめろよイズ!」

グレイが身をよじりながらイズに抗議するがイズは攻撃の手を緩める事無くグレイのほっぺたをつつく。

我の事をないがしろにするでない!

と言っているようだった。

その光景を見たアリシアは自然と笑顔になる。

「ふふふ」

「・・・はは」

アリシアに釣られてグレイも笑い始める。

2人の笑い声が馬車内に響き、良い雰囲気になって行く。

(本当にグレイさんといると楽しいですわね)

アリシアは笑いながらも幸せな気分になっていた。

なお、イズのつつき攻撃はしばらくの間やむことは無かった。




「グレイさん、見えてきましたわ」

しばらくした後、世間話のようなことをしていたグレイとアリシアだが、アリシアが窓の外を指差すことで外に注目をする。

グレイはすぐに窓から顔を出し、

「あれがモリアスの町なのですね。ここから見えている範囲でも大きな町ということが分かりますね」

感心したように呟く。

「はい。王都には及びませんが、国内で二番目に大きな町と言っても良いと思いますわ」

アリシアが説明をしてくれる。

「国内で二番目に大きな町ですか。楽しみです」

グレイは初めて行く大きな町をアリシアと見て回れることを嬉しく思った。



「ありがとうございました。では、また夕方頃にこちらでお待ちしておりますわ」

「畏まりました。お気をつけください」

馬車をモリアスの町の手前で停め、降りたアリシアが御者に礼を言うと待ち合わせの時間を告げる。

御者は了承しアリシアに言葉を返す。

「ありがとうございました」

グレイもタイミングを見計らって御礼を言うと御者は深々と頭を下げ、

「グレイ様、アリシアお嬢様のことよろしくお願い致します」

と言ってくる。

「もちろんです。お任せください」

グレイは元からそのつもりだったこともあり、御者のお願いを快諾するとにっこり笑顔になった御者はゆっくりと馬車を反転させ、屋敷の方に戻って行った。

その様子をグレイとアリシアで見守っていると、

『やれやれ、やっと喋れる』

グレイの左肩にいたイズが声を上げた。

「イズさん、大丈夫でしたか?」

『ああ。問題ない。2人の雰囲気に堪えるのがちと大変だっただけだ』

「・・・申し訳ございません」

「・・・ごめん」

アリシアとグレイがその時のことを思い出したのか恥ずかしそうにそれぞれが謝る。

『・・・冗談だ』

イズは場を和ませるために呟いた後、

『さて、我はまた小鳥に戻るぞ』

と沈黙宣言をした。

「「・・・」」

グレイとアリシアは少しだけ沈黙した後、

「グレイさん、参りましょうか?」

と声を掛ける。

「はい。よろしくお願い致します」

どこで誰が見ているかも分からない。

グレイは継続して敬語で答えた。





「アリシアさんは凄いですね。まさか顔パスとは思いもよりませんでした」

無事にモリアスの町に入れたグレイはアリシアが町の検問を顔パスで通れたことに驚いていた。

何も聞かれることもなく通れただけでなく、並ばなくて大丈夫でしたのにとまで言われるくらいであった。

「大したことはありませんわ。凄いのはバルム家であって私《わたくし》ではありませんので」

アリシアは本気でそのように思っているのか、淡々とそのように答える。

「そうですかね?」

グレイはついそう言ってしまう。

「・・・どうしてそう思われるのですか?」

アリシアはモリアスの町の途中で立ち止まり、グレイの目を見て尋ねる。

幸いにして立ち止まっても周りに人がいない通りなため邪魔にはならない。

「うーん。上手くは言えないけど」

グレイは一度前置きをしてから続ける。

「確かにバルム家自体も凄いけど、それだけじゃないと俺は思うよ。さっきの警備の方だってアリシアさんのことを本気で思っての言葉だったように見えたし。ただ単純にバルム家だからというならあんな表情はしないよ」

周りに人がいないので敬語もやめて話すグレイ。

「・・・」

アリシアは沈黙し、グレイの言葉を考える。

「それに魔法学園のみんなもそうだ。バルム家だからアリシアさんに注目している人は少なからず居てもおかしくないけど、アリシアさんだからこそあそこまでの人気があるのだと思うよ。それに何より」

グレイはここで一度区切り、

「余り他人に興味を持たなくなった俺がまだ出会ってちょっとしか経ってないアリシアさんに対してここまで凄いと思ってるからね」

と真っ直ぐな目をしてアリシアに言い切った。

アリシアは最後のグレイの言葉にポカンとし、

「ふふふ。何ですか最後のセリフは」

と面白そうに微笑み、

「・・・グレイさんの仰る通りかもしれませんね。もう少しくらいは自分に自信を持つように致しますわ」

すっきりした表情で答えたのだった。
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