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第79話
しおりを挟む「グレイさん、おはようございます」
「アリシア様、おはようございます」
イズに6時に起こしてもらったグレイは余裕を持って支度をし、約束の7時にはアリシアと合流し朝の挨拶を交わす。
「では、参りましょうか?」
「はい。よろしくお願い致します」
アリシアの声掛けで御者にも挨拶しながら馬車の中に入るグレイとアリシア。
「やっぱりこの場所はすごく良い座り心地ですね」
グレイが馬車の中に入るといつぞや乗らせてもらった高級馬車だと分かりテンションを上げる。
『・・・』
興味を持ったのかイズもグレイの左肩から降りて柔らかい感触を楽しむ。
「ふふふ。では参りましょうか」
アリシアはグレイやイズの様子を見た後、御者に出発の合図を送る。
ゆっくりと進み出す馬車。
それに伴い流れ始める景色。
急に気がつく2人きりという事実。
(あれ?俺今アリシアさんと2人きりじゃね?)
正確にはイズも入れて3人なのだが、一度気になりだしたグレイはそのことに気が付かない。
(昨日は勉強に集中していたし意識することは無かったけど、今日は・・・)
いくら高級馬車とはいえ、馬車は馬車だ。
限られた空間であることは変わらない。
グレイはアリシアと狭い空間に2人という状況は初めてだったことに今更ながらに気がつく。
グレイは心を落ち着かせるために窓の景色を見る。
「本日はまさに散策日和ですわね」
目の前に座るアリシアがグレイと同じように景色を見ながら呟く。
ちなみにアリシアは馬車の後方で進行方向に向かって座っており、グレイは馬車の前方で進行方向に逆向きに座っている。
「本当にそうですね」
馬車の外とはいえ御者が近くにいるので自然と敬語のままなグレイ。
話しかけられたのでアリシアの方を向かないわけにはいかず、アリシアの方を向きながら答える。
と、
「グレイさん、どうされましたか?」
そこには女神がいた。
清々しい朝の太陽の光に照らされ、アリシアの綺麗な赤い髪がキラキラと光り輝いている。
服も生地が良いのかキラキラと光り輝いて見え、グレイにはアリシアがまるで女神のように見えた。
「・・・」
グレイは見惚れてしまい、返事を出来ないでいると、
「グレイさん?具合でも悪いのですか?」
返事の無いグレイを心配してアリシアが顔を近づけてくる。
間近に見える女神の顔はグレイを更に動揺させる。
かえって、そのお陰で正気に戻ったグレイは、
「だ、大丈夫です。その・・・余りにも綺麗すぎて見惚れていただけですから・・・」
正直にアリシアに答える。
それを聞いた途端に、
ぼっ
女神の顔が一瞬で沸騰する。
アリシアはなるべく平静を装いながら、席に戻ると、
「あ、ありがとうございますわ」
と恥ずかしがりながら消えそうな声で答える。
「・・・」
(ちょっと反則かな)
グレイはアリシアの可愛さに自らも真っ赤になるのを感じた。
ガタッ
「「!?」」
真っ赤な顔をした2人の沈黙・・・真っ赤な沈黙が支配した馬車の空気を壊してくれる存在がいた。
そう、イズである。
2人の雰囲気にあてられたイズは室温が上がったかのような錯覚をも覚えた馬車の中に新鮮な空気をいれるべく馬車の窓を器用に開けたのだ。
外の涼しめの風が馬車内に入り、グレイとアリシアの火照った顔を少し冷ます。
ガタッ
イズがさらにもう片方の窓を開けると風の勢いが強くなり2人の顔が見る見る赤くなくなっていく。
「く、空気も美味しいですわね」
完全に冷静を取り戻したアリシアが動揺しながら呟くと、
「そ、そうですね。気持ちいいですね!」
とグレイも慌てて反応する。
『・・・』
こいつら完全に我を忘れておったな
そんなイズの無言の言葉が聞こえて来たような気がしたのは気の所為では無かっただろう。
「そう言えば、どこの町に向かっているのですか?」
やっと落ち着きを取り戻したグレイがしばらくした後、アリシアに尋ねる。
「あ・・・はい。私《わたくし》の家からもそう遠くないモリアスの町に向かっております」
アリシアが一瞬の間をおいてから返答する。
「モリアスの町ですか・・・確か商業が発達した町ですよね。行ったことなかったので楽しみです」
「はい。モリアスの町ですと色々な品物が置いてありますし、見て回ると楽しいと思いますわ」
アリシアは何度か行ったことがあるのかそのように頭に光景が浮かんでいるかのようにグレイの言葉に答える。
「アリシアさんは、何度か行ったことがあるのですね」
「はい。両手では数えられないくらいには行っておりますので道案内はお任せください!」
アリシアがグレイに向かって任せろとばかりに拳を握りしめ両手を胸の位置まで持ってくる。
「それは心強いですね。よろしくお願いいたします」
「はい!お任せください!!」
アリシアが嬉しそうに快諾する。
「・・・ところで町へはお一人で行かれたのですか?」
グレイが直接は聞けないので周りくどい言い方でアリシアに確認する。
アリシアはグレイの顔を見て、グレイの本当に聞きたいことを直ぐに察したのか少し意地悪そうな顔をしてから、
「ふふふ、さてどうでしょうね」
とからかうように言ってくる。
「・・・」
グレイはその言葉に何とも言えない顔をする。
(・・・アリシアさんの表情からすると俺が気にしていることが分かったって感じだな。まあ、アリシアさんほどの人ならデートの一つや二つしていても可笑しくないか・・・)
そして、だんだんとテンションが下がっていくのが自分でも分かった。
「・・・すみません。楽しくてちょっと意地悪をし過ぎましたわ」
グレイが沈黙していると、アリシアが急に謝ってくる。
「え?」
何故謝られたのか自覚のなかったグレイはアリシアに謝られて驚く。
「そんな顔をされなくても大丈夫ですわ。私《わたくし》が男性と町に行くのはグレイさんが初めてですから」
とアリシアがはにかみながら告げたのだった。
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