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第76話

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「さあ、話もまとまったようだし朝食にしよう」

グレイとマリーの会話が一区切りしたタイミングでゾルムが2人を朝食の席に誘導する。

ゾルムとマリー、アリシアとグレイといった形で対面に座る。

マリーがグレイとアリシアにヒアリングする趣旨があるためこその席の配置だろう。

4人が揃うのタイミングを見計らい料理が運ばれてくる。

更にもう一つ皆と同じ料理を小さくしたものも運ばれる。

(ん・・・これはイズの分かな)

そう思いながらゾルムを見るとその通りだとばかりに頷く。

グレイはゾルムに頭を下げ、

「イズ。これ食べて良いってさ」

左肩のイズを小皿の前にそっと置いてやる。

「ほぉ、小鳥を飼ったのか?」

その行動を興味深い見ていたマリーが声を掛ける。

「はい。こちらに戻る道中で仲良くなったんです」

グレイは変にマリーが反応して気落ちしないように『拉致されてから』とか『迷宮辺りで』などという単語を言わないように答える。

「そうか。可愛らしいな小鳥だな」

意外と動物好きなのか嬉しそうに呟く。

「コホン。まずは食べようか」

ゾルムがわざとらしく咳をし、自ら朝食を食べ始める。

嬉しそうに見ていたマリーも我に返り食事を始めた。

ちなみにイズはゾルムが言う前に必死に食べていた。




「アリシア様、グレイ君。ご協力ありがとうございます。ゾルム様からのお話、そしてナガリアの話から全容が理解できました」

簡単な事情を聞かれた位ではあったがグレイとアリシアはマリーからの聴取が終わり、礼を言われた。

基本的にマリーが、時系列で起こったことを説明し、当事者の話が聞きたい時にグレイやアリシアに話をふるということを繰り返し行われた。

ちなみにマリーが迷宮にグレイがいることを悟った魔法の詳細を聞こうとした時には何故かぼかされたことが印象に残った。

マリーは早速席を経つと、

「ゾルム様、朝食ご馳走様でした。私はこれからナガリア達を連行致します」

ゾルムに頭を下げた後、今後の流れを説明する。

「ああ。よろしく頼む」

「はい。失礼致します」

こうしてマリーは食堂を後にした。

「ムスター」

ゾルムが声を掛けるとムスターは無言で頷くとマリーの後を追うようにして食堂を後にする。

マリーの見送り及び手伝いに行ったのだろう。

「さて、グレイ君」

ゾルムが食後のお茶を飲んで寛いでいるグレイに話し掛ける。

グレイはティーカップをテーブルの上に置き、

「はい。何でしょうか?」

と尋ね返す。

ゾルムはアリシアの方を一度向いた後、

「繰り返しになるが一度だけでなく二度もアリシアの命を救ってくれて本当にありがとう」

ゾルムが頭を下げ、

「グレイさん、本当にありがとうございます」

グレイの隣に座るアリシアも頭を下げる。

「とんでもありません。頭をお上げください。アリシアさんがご無事で本当に良かったです」

グレイが嬉しそうに返事をする。

「・・・グレイさん」

グレイの言葉に感動するアリシア。

ゾルムはグレイの言葉に嬉しそうに何度も頷くと、

「是非とも御礼をさせて欲しい」

とグレイにとっては苦手な言葉をかけてきた。



「・・・ゾルム様・・・」

「すまないが流石に拒否することはできないよ」

「・・・」

グレイが謹んで辞退しようと口を開くと、ゾルムがそれは駄目だと先んじて制止し、グレイは二の句が続けなくなる。

(・・・困った。アリシアさんが無事なだけで俺は満足なんだけど・・・)

グレイがどうすればいいのか本気で困る。

そんなときこちらをじっと見つめるイズの視線に気が付いた。

(なんだ?イズは何を伝えようとしているんだ・・・あ、そうか)

グレイは先ほどの風呂でのイズとのやり取りを思い出す。

「・・・では、一つよろしいでしょうか?」

「一つと言わず、もっと沢山でもいいのだがまずは聞かせてくれるかい?」

ゾルムがグレイの望みが聞けるということになって相好を崩す。

アリシアもグレイの言葉に興味深々の様子である。

「情報を教えていただきたいです」

「ふむ、情報ね。確かに内容によっては御礼に見合う。それでどんな内容かな?」

「はい。この国の温泉地についていくつかお教えください」

グレイがはっきり言うと、イズが嬉しそうにする。

「・・・すまない。もう一度言ってくれるかな?」

一方、ゾルムはグレイが言ったことに頭が追い付かないのかもう一度確認をしてくる。

アリシアはイズの様子から何となく事情を察し、「グレイさんらしいですわ」と言わんばかりに微笑んでいる。

「この国で平民が入ることのできる温泉地についての情報を教えて頂きたいのです」

グレイは改めて言い直す。

「・・・どうやら聞き間違いではないみたいだね。温泉地の情報だったら集めるのは容易いが理由を聞いてもいいかい?」

「この小鳥がお風呂好きなようでして、色んな温泉に連れて行ったらとても喜ぶと思ったからです」

グレイはイズを手に乗せながら正直に答える。

ゾルムは余りの内容に沈黙する。

そして、楽しそうに笑いだす。

「はーはっはっ!本当にグレイ君は欲が無いね。分かった温泉の情報を集めて教えよう。しばらく時間を貰っても良いかな?」

「はい。よろしくお願いいたします」

グレイは何故笑われているか分からないが希望が通ったので頭を下げる。

「だがねグレイ君・・・アリシアの命を救って貰った御礼としては釣り合わないのだが他に何か無いかね」

ゾルムが「欲が無いな」と言いたそうな顔をしながらグレイに再度尋ねる。

「・・・・・・・・・」

グレイはゾルムの言葉に答えられず完全に沈黙してしまう。

その様子を見かねたゾルムが、

「ふぅ。分かった。私に任せて貰えるか?何か考えておこう」

妥協案を出す。

「・・・ありがとうございます」

グレイは申し訳ない気分でゾルムに礼を言った。





「グレイ君は本当に欲が無いな」

グレイとイズが食堂を出て行った後、ゾルムが呟く。

「本当ですわね。あのような方は初めてお会いしました」

アリシアがゾルムの言葉に頷く。

「そうだね。アリシア、グレイ君への御礼は何が良いと思う?無難に金一封かな?」

ゾルムは無欲なあの男の子に何を上げたらいいか困ったようにアリシアに尋ねる。

するとアリシアは待っていましたとばかりに、

「私《わたくし》はグレイさんと対等に接したいですわ。ですので、爵位・・・というのはいかがでしょうか?」

にっこりと答えたのであった。
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