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第73話

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「なあ、イズ?」

アリシアが全力で拒否しているのを見ながら、今度はグレイが気になったことを尋ねる。

『まさか【エリクサー】程度で火種になるとはな・・・ん。どうしたグレイ?作り方を知りたいのか?』

イズがブツブツと気になるセリフを吐いていたが、グレイは聞かなかったことにして尋ねる。

「作り方は聞いても分からないからいいや。それよりもまだ迷宮に【エリクサー】ってあるのかな?」

『もちろんあるぞ・・・だが、昔以上に取得難易度は高まりほぼ不可能だな』

「ということは今は地下100階にしか無いということだね。それなら安心だ」

グレイがほっとしたように呟く。

「グレイさん?一体どういうことですか?」

グレイとイズの会話を聞いていたアリシアが何やら聞き捨てならない内容だったため確認してくる。

グレイはその言葉に対して説明しようと迷宮のことを思い出した時、あっと思わず声を出す。

火種になりそうな話がまだあったことを思い出したからだ。

「・・・ごめん。まだあった。アリシアさんに話しておかないといけない秘密がまだあったんだった・・・」

とグレイが前置きをする。

「・・・少しお待ち下さい」

アリシアは左手の平をグレイに向けて静止を示すリアクションをすると深呼吸を始める。

「ふぅ・・・良いですわ。お聞きする準備が整いました。どうぞお話しください」

アリシアがグレイをじっと見て先を促す。

グレイは非常に申し訳無さそうに、

「えっとね。まず、迷宮を壊すと流石に踏破されたことがあるのがバレちゃうと思って破壊せずに残して置いたんだ」

前置きをする。

アリシアはその事については、

「良い判断だと思いますわ。迷宮ブームは去ったとはいえ、未だに挑戦するものは後を絶ちませんから」

「ありがとう」

「ただ・・・順調に進んだ方が既に踏破されていたことを知った時の思いには同情を禁じえませんが・・・」

アリシアが気の毒そうな顔になる。

『・・・それは大丈夫だろう。そうそう進める人間はおらんからな』

イズがフォローする。

「・・・その件に関しては気の毒な事にならないことを祈るしか無いから置いておいて、迷宮踏破者になった俺は地下99階までと地下100階プラス地下101階までを隔離して貰ったんだ。それでさっきイズが言ったのは【エリクサー】は地下100階にしか無くなったってことなんだ」

グレイの言葉にアリシアはイズを見ると小さな首を縦に振る。

「そういうことでしたら【エリクサー】が迷宮にあることが分かっても向かう方が増えなくて済みますわね」

アリシアがほっとする。

が、喋った後であることに気がついた。

「少しお待ち下さい。では、グレイさんはどのようにして迷宮を脱出されたのですか?」

「・・・そこが先程に加えた火種の元になる可能性がある話なんだけど・・・」

グレイが傍らにいるイズを見た後続ける。

「その迷宮の地下101階には【転移のオーブ】っていうのがあったんだよね。これは魔法陣を描かなくても魔力さえあればどこへでも行けるものなんだ」

「【転移のオーブ】・・・ですかとんでもない代物ですわね」

アリシアがグレイの言葉を反芻しながら、

(知りませんでしたわ。驚きが沢山あると逆に冷静になるものなのですわね)

と、関係のないことを考え、少し現実逃避気味である。

「俺に魔力が沢山あればここまで一気に来れたんだけどせいぜい迷宮を出るしか出来なくてね。ひと月もかかっちゃったんだ・・・」

グレイが申し訳無さそうに補足する。

「お気になさらないで大丈夫ですわ。確かに早くお会い出来た方が嬉しかったですがそうした場合昨日のように助けて頂くことは無かったでしょうし・・・」

(実際にそうなってみないとわかりませんが平日の突然の呼び出しでしたし、グレイさんを巻き込むことはしなかったはず。とすれば、私《わたくし》は間違いなく昨日この世からいなくなってましたわ・・・)

ある意味、グレイの魔力が少ないからこそ助かったのだ。

「ありがとう。そう言って貰えると助かるよ。でも、例えそうだったしても俺はアリシアさんを助けに行ったよ」

アリシアの心中を知ってか知らずかグレイがさらりと断言した。



ボンッ

グレイの言葉にアリシアの顔は真っ赤になった。

「あ、ありがとうございます」

少し早口気味でアリシアが礼を言う。

(うう。照れてしまいますわ)

「・・・ううん。とんでもない」

グレイはグレイでアリシアの様子を見て自分が何を言ったのか理解し今更照れ始める。

「「・・・」」

しばらくの間、お互いをチラチラと見る時間が続いた。

『コホン』

見かねたイズがわざとらしく席をすると、2人はやっと我に返る。

「そ、そういえばグレイさんはその【転移のオーブ】というのも持ってらしたのですか?」

アリシアが話を頑張って変える。

「ん、あ、えーっと、あれは場所を移動させると使えなくなるってことだったから迷宮にあるよ。そうだったよねイズ?」

グレイも頑張って受け答える。

『ああ。その通りだ』

イズがやれやれという感じで答えた。

「と、言うことは実質的に誰も【エリクサー】と【転移のオーブ】がある場所には行けないということですわね」

アリシアがほっとしながら呟く。

「・・・(ダラダラ)」

その言葉にグレイは沈黙し、冷や汗をかく。

「・・・グレイさん。責めたりしませんからお話ください」

小出しにしてもお互いのためにならない。

グレイは、そのように結論付け、思い切って話す事にした。

「実は何かあった時に地下101階に行けるように転移魔法陣を書いてきました!あと、地下101階には動かなくなった【魔人形】が数十体転がってます!!」

悪気はないが悪いことをしている気分のグレイは自然と言葉遣いが敬語になる。

「・・・お話しくださりありがとうございますわ。その・・・他にはありませんか?」

アリシアは平常心を保とうとしながらグレイに返すが内心は動揺していた。

(封鎖された地下迷宮に行ける方法があるのは魔法を嗜むものとしては非常に興味がありますわ。行ける方法を残して置いたことは気持ちは凄くわかりますので別に良いですわ。ですが・・・【魔人形】ですか・・・イズさんがお話していたことですわよね。これは火種になりますわね・・・)

何と言うことだ、秘密にすべき事がどんどん増えていく。

「・・・他には無いと思うよ・・・たぶん・・・」

グレイが自信無さげに呟く。

アリシアは深い呼吸をひと吐きし、

「・・・そこは断言して欲しいですがまあいいですわ。今度落ち着いたら迷宮に私《わたくし》を連れて行ってくださいませんか?」

「うん。もちろん良いよ」

グレイは迷う素振りもせずに快諾する。

その全幅の信頼を受けたアリシアはとても嬉しく思いあることに気がつく。

(・・・良く考えてみますとグレイさんが魔法陣を書けても魔力的には遠く離れた場所への転移は出来ませんわ。それでも書いてきたということは・・・そもそも私《わたくし》と一緒に行くことしか頭に無かったということではないですかっ!?)

その事実に気づいたアリシアはまたもや顔が赤くなるのを感じたのだった。
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