74 / 339
第73話
しおりを挟む「なあ、イズ?」
アリシアが全力で拒否しているのを見ながら、今度はグレイが気になったことを尋ねる。
『まさか【エリクサー】程度で火種になるとはな・・・ん。どうしたグレイ?作り方を知りたいのか?』
イズがブツブツと気になるセリフを吐いていたが、グレイは聞かなかったことにして尋ねる。
「作り方は聞いても分からないからいいや。それよりもまだ迷宮に【エリクサー】ってあるのかな?」
『もちろんあるぞ・・・だが、昔以上に取得難易度は高まりほぼ不可能だな』
「ということは今は地下100階にしか無いということだね。それなら安心だ」
グレイがほっとしたように呟く。
「グレイさん?一体どういうことですか?」
グレイとイズの会話を聞いていたアリシアが何やら聞き捨てならない内容だったため確認してくる。
グレイはその言葉に対して説明しようと迷宮のことを思い出した時、あっと思わず声を出す。
火種になりそうな話がまだあったことを思い出したからだ。
「・・・ごめん。まだあった。アリシアさんに話しておかないといけない秘密がまだあったんだった・・・」
とグレイが前置きをする。
「・・・少しお待ち下さい」
アリシアは左手の平をグレイに向けて静止を示すリアクションをすると深呼吸を始める。
「ふぅ・・・良いですわ。お聞きする準備が整いました。どうぞお話しください」
アリシアがグレイをじっと見て先を促す。
グレイは非常に申し訳無さそうに、
「えっとね。まず、迷宮を壊すと流石に踏破されたことがあるのがバレちゃうと思って破壊せずに残して置いたんだ」
前置きをする。
アリシアはその事については、
「良い判断だと思いますわ。迷宮ブームは去ったとはいえ、未だに挑戦するものは後を絶ちませんから」
「ありがとう」
「ただ・・・順調に進んだ方が既に踏破されていたことを知った時の思いには同情を禁じえませんが・・・」
アリシアが気の毒そうな顔になる。
『・・・それは大丈夫だろう。そうそう進める人間はおらんからな』
イズがフォローする。
「・・・その件に関しては気の毒な事にならないことを祈るしか無いから置いておいて、迷宮踏破者になった俺は地下99階までと地下100階プラス地下101階までを隔離して貰ったんだ。それでさっきイズが言ったのは【エリクサー】は地下100階にしか無くなったってことなんだ」
グレイの言葉にアリシアはイズを見ると小さな首を縦に振る。
「そういうことでしたら【エリクサー】が迷宮にあることが分かっても向かう方が増えなくて済みますわね」
アリシアがほっとする。
が、喋った後であることに気がついた。
「少しお待ち下さい。では、グレイさんはどのようにして迷宮を脱出されたのですか?」
「・・・そこが先程に加えた火種の元になる可能性がある話なんだけど・・・」
グレイが傍らにいるイズを見た後続ける。
「その迷宮の地下101階には【転移のオーブ】っていうのがあったんだよね。これは魔法陣を描かなくても魔力さえあればどこへでも行けるものなんだ」
「【転移のオーブ】・・・ですかとんでもない代物ですわね」
アリシアがグレイの言葉を反芻しながら、
(知りませんでしたわ。驚きが沢山あると逆に冷静になるものなのですわね)
と、関係のないことを考え、少し現実逃避気味である。
「俺に魔力が沢山あればここまで一気に来れたんだけどせいぜい迷宮を出るしか出来なくてね。ひと月もかかっちゃったんだ・・・」
グレイが申し訳無さそうに補足する。
「お気になさらないで大丈夫ですわ。確かに早くお会い出来た方が嬉しかったですがそうした場合昨日のように助けて頂くことは無かったでしょうし・・・」
(実際にそうなってみないとわかりませんが平日の突然の呼び出しでしたし、グレイさんを巻き込むことはしなかったはず。とすれば、私《わたくし》は間違いなく昨日この世からいなくなってましたわ・・・)
ある意味、グレイの魔力が少ないからこそ助かったのだ。
「ありがとう。そう言って貰えると助かるよ。でも、例えそうだったしても俺はアリシアさんを助けに行ったよ」
アリシアの心中を知ってか知らずかグレイがさらりと断言した。
ボンッ
グレイの言葉にアリシアの顔は真っ赤になった。
「あ、ありがとうございます」
少し早口気味でアリシアが礼を言う。
(うう。照れてしまいますわ)
「・・・ううん。とんでもない」
グレイはグレイでアリシアの様子を見て自分が何を言ったのか理解し今更照れ始める。
「「・・・」」
しばらくの間、お互いをチラチラと見る時間が続いた。
『コホン』
見かねたイズがわざとらしく席をすると、2人はやっと我に返る。
「そ、そういえばグレイさんはその【転移のオーブ】というのも持ってらしたのですか?」
アリシアが話を頑張って変える。
「ん、あ、えーっと、あれは場所を移動させると使えなくなるってことだったから迷宮にあるよ。そうだったよねイズ?」
グレイも頑張って受け答える。
『ああ。その通りだ』
イズがやれやれという感じで答えた。
「と、言うことは実質的に誰も【エリクサー】と【転移のオーブ】がある場所には行けないということですわね」
アリシアがほっとしながら呟く。
「・・・(ダラダラ)」
その言葉にグレイは沈黙し、冷や汗をかく。
「・・・グレイさん。責めたりしませんからお話ください」
小出しにしてもお互いのためにならない。
グレイは、そのように結論付け、思い切って話す事にした。
「実は何かあった時に地下101階に行けるように転移魔法陣を書いてきました!あと、地下101階には動かなくなった【魔人形】が数十体転がってます!!」
悪気はないが悪いことをしている気分のグレイは自然と言葉遣いが敬語になる。
「・・・お話しくださりありがとうございますわ。その・・・他にはありませんか?」
アリシアは平常心を保とうとしながらグレイに返すが内心は動揺していた。
(封鎖された地下迷宮に行ける方法があるのは魔法を嗜むものとしては非常に興味がありますわ。行ける方法を残して置いたことは気持ちは凄くわかりますので別に良いですわ。ですが・・・【魔人形】ですか・・・イズさんがお話していたことですわよね。これは火種になりますわね・・・)
何と言うことだ、秘密にすべき事がどんどん増えていく。
「・・・他には無いと思うよ・・・たぶん・・・」
グレイが自信無さげに呟く。
アリシアは深い呼吸をひと吐きし、
「・・・そこは断言して欲しいですがまあいいですわ。今度落ち着いたら迷宮に私《わたくし》を連れて行ってくださいませんか?」
「うん。もちろん良いよ」
グレイは迷う素振りもせずに快諾する。
その全幅の信頼を受けたアリシアはとても嬉しく思いあることに気がつく。
(・・・良く考えてみますとグレイさんが魔法陣を書けても魔力的には遠く離れた場所への転移は出来ませんわ。それでも書いてきたということは・・・そもそも私《わたくし》と一緒に行くことしか頭に無かったということではないですかっ!?)
その事実に気づいたアリシアはまたもや顔が赤くなるのを感じたのだった。
389
お気に入りに追加
1,441
あなたにおすすめの小説
【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります
すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。
なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!
冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。
ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。
そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。
大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ
鮭とば
ファンタジー
剣があって、魔法があって、けれども機械はない世界。妖魔族、俗に言う魔族と人間族の、原因は最早誰にもわからない、終わらない小競り合いに、いつからあらわれたのかは皆わからないが、一旦の終止符をねじ込んだ聖女様と、それを守る5人の英雄様。
それが約50年前。
聖女様はそれから2回代替わりをし、数年前に3回目の代替わりをしたばかりで、英雄様は数え切れないぐらい替わってる。
英雄の座は常に5つで、基本的にどこから英雄を選ぶかは決まってる。
俺は、なんとしても、聖女様のすぐ隣に居たい。
でも…英雄は5人もいらないな。
大好きな母と縁を切りました。
むう子
ファンタジー
7歳までは家族円満愛情たっぷりの幸せな家庭で育ったナーシャ。
領地争いで父が戦死。
それを聞いたお母様は寝込み支えてくれたカルノス・シャンドラに親子共々心を開き再婚。
けれど妹が生まれて義父からの虐待を受けることに。
毎日母を想い部屋に閉じこもるナーシャに2年後の政略結婚が決定した。
けれどこの婚約はとても酷いものだった。
そんな時、ナーシャの生まれる前に亡くなった父方のおばあさまと契約していた精霊と出会う。
そこで今までずっと近くに居てくれたメイドの裏切りを知り……
とんでもないモノを招いてしまった~聖女は召喚した世界で遊ぶ~
こもろう
ファンタジー
ストルト王国が国内に発生する瘴気を浄化させるために異世界から聖女を召喚した。
召喚されたのは二人の少女。一人は朗らかな美少女。もう一人は陰気な不細工少女。
美少女にのみ浄化の力があったため、不細工な方の少女は王宮から追い出してしまう。
そして美少女を懐柔しようとするが……
不幸な少女の”日常”探し
榊原ひなた
ファンタジー
夜の暗闇の中、弱々しく歩く少女の姿があった。
03:31という時間なので車や人が通らず、街灯もない道を歩く少女の姿を見る者はいない。
もしその少女の姿を見たら思わず目を背けてしまうだろう。裸足で…異様なほど痩せていて…痛々しい痣や傷を全身に作り、服はだらしなく伸びきっており…肩口が破け…髪はボサボサで…。
だが…その少女は虚ろな目をしながら微かに笑っていた。
………
……
…
これは…不幸な少女の”日常”を探す物語。
_________________________
*一話毎文字数少ないです。
*多分R18じゃないはずです、でも一応そういった事も書いてあります。
*初めて書く小説なので文章力や表現力が無く、所々間違っているかも知れません。
*伝わらない表現があるかも知れません。
*それでも読んで頂けたら嬉しいです。
*本編完結済みです。
最強への道 〜努力は俺を裏切らない
ペンギン
ファンタジー
ある日、突然世界に魔物が溢れたら
命が簡単に失われる世界になってしまったら
そんな世界で目が覚めたら一人きりになっていたら
〈あなたはどうしますか?〉
男は選んだ"最強になり生き残る道"を
絶望的な世界において一冊の本に出会った男が
努力、努力、努力によって世界に立ち向かう
※誤字脱字が多く見られますのでご注意を
処女作です。軽い気持ちでご覧になって頂ければ幸いです。
復讐、報復、意趣返し……とにかくあいつらぶっ殺す!!
ポリ 外丸
ファンタジー
強さが求められる一族に産まれた主人公は、その源となる魔力が無いがゆえに過酷な扱いを受けてきた。
12才になる直前、主人公は実の父によってある人間に身柄を受け渡される。
その者は、主人公の魔力無しという特殊なところに興味を持った、ある施設の人間だった。
連れて行かれた先は、人を人として扱うことのないマッドサイエンティストが集まる研究施設で、あらゆる生物を使った実験を行っていた。
主人公も度重なる人体実験によって、人としての原型がなくなるまで使い潰された。
実験によって、とうとう肉体に限界が来た主人公は、使い物にならなくなったと理由でゴミを捨てるように処理場へと放られる。
醜い姿で動くこともままならない主人公は、このような姿にされたことに憤怒し、何としても生き残ることを誓う。
全ては研究所や、一族への復讐を行うために……。
※カクヨム、ノベルバ、小説家になろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる